月1回の通院と3人の秘密
当時僕の家は曾祖母、祖父母と一緒に住む4世代7人家族だった。僕が幼稚園児であった時に、親類の家で、生まれて初めてサイダーを口にした。口に含んだ瞬間、ほっぺの裏側が痛いと思い、思わず吹き出してしまったが、喉元が炭酸でシュワシュワした感じに衝撃を受けた。“何これ。こんなもの、世の中にあるんや”と思い、大好きになった。
しかし祖母が、「サイダーとかコーラみたいなもん飲んだら骨が溶けるから、飲んだらアカンで」と言って、家では飲ませてくれなかった。母親も祖母の手前、買ってくれなかった。
しかし通院日、診察後の会計を待っている時や、駅で電車を待っている時に、母親が自動販売機で、サイダーを1本だけ買ってくれた。買ってくれたあとにいつも母は、「おばあちゃんに黙っとくんやで」と唇に人差し指を立てるジェスチャーをした。
僕は、買ってもらった1本のサイダーを、兄と半分ずつ飲んだ。痛い注射を我慢して飲むサイダーの味は格別で、親類の家で飲んだ味よりもおいしく感じた。生まれて初めて、母と兄と僕の3人の秘密ができた。
子どもの僕にとってはいけないことをしているという罪悪感と共に、秘密を共有したというワクワク感が入り交じった思いであった。家に帰ってから、“サイダーのことは、お父さんにも言ったらアカンのかな”と悩んだが、父にも言わなかった。だって、母親に悪い気がしたから。
そのため、僕にとって病院に行くことは、大好きな炭酸飲料が飲めることと、3人で秘密を共有できる時間であり、楽しみになっていった。ただ6歳の僕にとって、なぜ自分だけが他の友達と違って、学校を休んでまで病院に行かなければいけないのかわからなかったし、両親に聞くこともできなかった。
おそらく幼心に、その質問をすることは許されないことであり、母親を困らせるかもしれないと、どこかで感じていたのかもしれない。