「あの口当たり、あの味は上方の品にも負けませぬよ。温かい汁でもよし、冷たい胡麻だれにつけてもよろしいかと……」

お方と話しているうちに、次第にその気分になってきたのは不思議だった。

「麺の表面に油を塗らぬと、麺と麺が張り付いてそうめんにならぬそうなのです。でも、油は時が経つほどに味も落ちて、嫌な臭いがするようになります。そこへいくと、あのそうめんは油を使わぬ分だけさっぱりとして味も格別かと」

「上方の……。油を使わぬそうめんが、すでに出ていよう」

お方が焦れたように言った。

「そうめんと呼ばなければよろしいのではありませぬか?」

なるほど。思わずうなずいていた。

「そうめんに似て非なるものとして、お殿さまが名付け親になられたらいかがでしょうか? そもそも油を使わぬそうめんは、大和小泉の特産品だそうにございます。でも白石は寒冷な土地柄、大和小泉のそうめんとは姿形がちと違うそうにございます」

「どう違うか聞いたか?」

「やや太め、とか」

江戸の各大名家や神社や寺への、配りものや手土産に使えばどうか、とお方は言った。陽にさらして干し上げるので、日持ちがする。

「先ずは上さまに献上いたしましょう。茶懐石のお凌ぎに使っていただけると嬉しうございますなあ」

「伊達さまにか、茶懐石のう……」

茶懐石か……腹の足しにはならぬなあ。儂はその後で塩の効いた握り飯が欲しいところだ。

「病み上がりの食の細い者にも、うってつけだそうにございます。油を使いませぬ分、胃の弱いおひとにも向いておりますとか」

領内の産物を他領にも広めて、領民の暮らし向きをよくせねばならぬ。手始めに買い上げて進物に使ってみよう。

「この際、包み紙は白石産の紙を使いましょう。白石産の紙は懐に入れれば風を通しませぬ。暖こうございます。衣装も作れて、柿渋を塗り重ねれば雨もはじきまする。わたくしが江戸に参りましたら、雨の日にひとの多い所へ出て、雨をはじく紙衣の衣装で白石の産物を広めましょう。こちらには腕のいい職人がそろっておりまする」

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