鶸色のすみか

バスが来るまでまだ十二分あった。等間隔に並んだ電柱からは真っ白な光を投げかけられ、観客のいない舞台の上に取り残されたように二人は立っていた。

月子はベンチに座り、もう一度時刻表を見る。時刻表の端に何かが貼り付いている。ゴミ？　枯葉？　奇妙なカタチだ。もしかして虫かな。さなぎかな。暗くて街灯の明かりが作る自分の影でよく見えない。

「白鳥さん、これ、何ですかねえ」

立っていた白鳥さんは、なになにと目を近づけた。

「わあ、なんだ、これ」

月子も立ち上がって、白鳥さんの横から目を凝らして観察する。長さ五センチに満たない、何かのさなぎのようけれど、たくさんの突起があって微動だにしない。白鳥さんは腰をかがめて観察している。

「虫ですか。何かの幼虫？　このいっぱい出てる突起みたいなのなんですかね。ちょっと気持ち悪い。こんな虫初めて」

「なんだろうね。こいつ。初めて見たよ。変わってるな」

そう言って、白鳥さんはベンチの下に落ちていた小枝で虫のお尻の先端を突いた。

「きゃあ！」

やはり何かの幼虫で、それは生きていた。突かれた尻を激しく左右に振ったので、月子は思わず悲鳴を上げてあとずさりした。奇妙な虫は、背中全体に米粒のようなものをびっしりとおっ立てている。

米粒といっても白ではなく、五穀米のように微妙に違った色で、体表の突起にしては恐ろしく際立っている。月子も白鳥さんも見たことのない奇妙な生物。

「こ、これ、鳥肌ものですね」

月子は腕をさすりながらつぶやいた。

「ちょっと、スマホ持ってる？」

「持ってますけど。えっ。写真撮るんですか？」

「僕、家にスマホ置いてきちゃったから」

月子は自分のスマホで虫の写真を撮られるのは嫌だなと思ったが、仕方なく白鳥さんにスマホを渡した。

「あまり近づけないでくださいよ」

白鳥さんは、フラッシュ機能をオンにしてシャッターを押した。

「白鳥さん、それ以上近づけないで！」

月子の声が大きかったのか、すぐ後ろの家のほうから、ピシッと窓を閉める音が聞こえた。

「私、この写真持っていたくないんですけど」

「あとで僕に送ってくださいよ」

「わかりました、でも送ったらすぐに消しますからね」