よし、覚悟を決めた

こうして、二人の交際が始まったのである。

それから二年間、順調に交際を続けていた。その間、母親と妹を千葉に呼び寄せて、ちょうど班長になって給料も上がった。社会人として、それなりに暮らすことができるようになった。そう考えたときに、無性に家を建てたくなった。自分の持ち家があってこそ男は一人前、などとも思った。

ある日、彼女に相談をした。

「おれ、家を建てようと思うんだけど、組合からお金を借りても百万円くらい足りないんだよね」

「ふーん、私が出してもいいよ」

彼女は五人きょうだいの末っ子。父親は彼女が生まれてまもなく出征し、満州で亡くなったという。父親の顔を知らずに育ったが、佐倉の農家で母親やきょうだいに囲まれて大事に育てられてきたのだろう。

おっとりとした性格は、きっと家族から愛され、かわいがられてきたからこその素直さだ。趣味は山歩きで、休日にはよくいろいろな場所に旅行に出かけていたけれど、自宅から通っていたから、しっかり貯金はあるらしい。

しかし、ちょっと待てよ、と私は思った。お金を借りれば、それはやはり結婚か ……。

男なんて勝手なものである。二年間付き合っていても、いざ結婚となると、なかなか決断ができない。やはり覚悟が必要だ。

「二、三日考えさせてくれ」

そう言って、三日考えて結論を出した。

【前回の記事を読む】産みの母ではないとしても我が子として懸命に育ててくれた、育ての母への思い