第二章独身時代、青春を謳歌する―日本復興の熱気の中で
新しい家族と共に
よし、覚悟を決めた
「一緒に家を建てよう。一緒に暮らそう」
私が三十歳、彼女が二十四歳のときである。結婚の良いタイミングと言えばそうである。
緊張しながら、彼女の家にも挨拶に行った。早くに亡くした父親の代わりに、十歳上のお兄さんが厳しい顔で待っていた。実は彼女には、いくつか良い条件の縁談が持ち上がっていたらしい。たぶん地元の人だったのだろう。
「九州の男か、そんな男はお断りだ!」
お兄さんは、彼女がわざわざ九州なんて遠いところの人と結婚しなくてもよい、という考えの持ち主だった。しかし反対されればされるほど、力がみなぎってくるものだ。九州男児の意地を見せてやる!と意気込んで、私は彼女のお兄さんと向き合った。
お兄さんは私より三つ年上であったが、父親代わりを意識してか、毅然とした姿勢で私を睨みつけてくる。
私は動揺する気持ちを抑えつつ、今は西千葉に住み、十年以上も川崎製鉄で働いていること、これから千葉に家を建てることなどを説明した。すると次第にお兄さんの心もほぐれてきたようだった。さらに自分が大の巨人ファンで、中でも長嶋の大ファンであることを話すと、お兄さんの目の色が変わった。
お兄さんは千葉県の農業高校の野球部の出身だった。長嶋茂雄は学年が二つ下で、なんと高校時代に対戦したこともあったという。
「いやぁ、当時から長嶋は凄かった。佐倉一高はそれほど野球の強い高校ではなかったけれど、一人だけすごくうまい三塁手がいると地元では有名だった。別格だったよ」
お兄さんの話にこちらも身を乗り出して聞き惚れる。そして酒を酌み交わし、野球話で盛り上がるうちに意気投合し、一時間も経った頃にはすっかり打ち解けた。
「気に入った! 妹をよろしく頼む」
最後はお兄さんもこう言って、私に頭を下げたのだ。
「はい。苦労をすることもあるかもしれませんが、別れることはしません。でも、一つだけ言っておきたいことがあります」
「なんだね」
「一生のうち、一回か二回、浮気をすることがあるかもしれません」
彼女に聞こえないように告白した。
「まぁ、男だからね。でも二度ですませてくれよ」
「ハイハイ、そのへんですませます」
二人で顔を見合わせて笑い、男同士の絆が結ばれたのである。もちろん彼女には内緒の話だが……。