第1章 バーカー仮説
3│バーカー語録( 著書『The Best Start in Life』より)
バーカーのタイトルは、やや象徴的なものですが、日本語訳はストレートに本の主題を掲げる衝撃的なタイトルです。この本の中には、多くの驚異的な事実が述べられていますが、ここに「バーカー語録」として、その一部を紹介します。
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妊娠する前から、多彩でバランスのとれた食事を心がけることで、子どもは幸せなスタートを切ることができる。母親が今日食べるものは、わが子の一生だけにとどまらず、さらに次の世代の健康さえも左右するのである。
筆者コメント
バランスのとれた食事とは、カロリー、タンパク質、炭水化物、脂肪だけでなく、種々のビタミン類もしっかりとることです。葉酸の欠乏は二分脊椎症の頻度を高めますので、欧米では葉酸を含む食材(ホウレンソウ、ブロッコリー、枝豆、キャベツなど)の摂取を推奨し、また、サプリの投与が行われています。さらにビタミンDやビタミンKなどを含む食事の摂取を心がけましょう。
4│バーカー仮説提唱後の逆風
子宮内の栄養障害から出生早期の成長過程で起こった影響が、虚血性心疾患のリスクを高めるという説は、当然のように多くの批判を呼び込みました。
BMJ(British Medical Journal、イギリス医師会雑誌)のEditorials(論説、1995)によれば、バーカーグループによる報告は、1987年以来1995年までに、少なくとも40の論文(その大部分はBMJ掲載)と2冊の本があると述べています。
このジャーナルにも4個の関連論文が掲載されました。バーカー仮説に対しては、様々な反論があり、この仮説に対して厳正な批判、検証を求めるとの厳しい論調です。特に、この仮説を公衆衛生上の施策として広めるためには、厳密な検証が求められると述べています(注1(注2(注3。
BMJ Editorialsの主な指摘は、次の通りです(注1。
1.これまでの報告は、ごく一部の限られた地域のデータであり、そこには対象選択のバイアスがかかっているのではないか。
2.ストラチャン(Strachan)らの報告では、生まれた場所だけでなく、移住した場所も病気の発症に関係するとしているが、サウザンプトングループはこのことを考慮していない。
3.母親の喫煙は、胎児の成長と心疾患に影響を及ぼすが、これを検討すれば、結果に影響したであろう。
4.対象の社会階層は、人々の健康に大きな影響を及ぼすが、児やその両親の社会階級が生涯にわたってどのレベルにあるか、最近の2編の論文では述べられていない。
5.胎児の生育が母親の栄養によって決まるというのであれば、食事が飢餓レベルであったのか。また、児の体重に影響するのは、妊娠の末期の栄養状態であることが、すでにわかっている。