「どうしたの? 松岡さん」

不意に声をかけられて振り向くと、竹村が立っていた。

「え……、いや、ペアを組んでいる山沖がね。ほら、あの様子なんでさ。どうにかしてやれないかなと思ってね」

困り果てた顔で竹村の顔を見た。

「そうよね。あれはやりすぎだと私も思うな。松岡さん、この前みたいな心理作戦を立てればいいんじゃない」

竹村は微笑んでいる。

「まあ、そうだけど。頭が働いてくれないんだ」

「そうだ。山沖さんのアシスタント、川原さんだっけ。今日、彼女を誘うから三人で作戦会議開きましょうよ」

竹村は真面目な顔になって提案してきた。

「え、山沖はどうする?」

とっさの言葉に上手く返答ができなかった。

「山沖さんは無理よ。課長から解放されるとは思えないわ。じゃあ、松岡さん、了解ね。後で落ち合う時間と場所を連絡するから」

竹村は俺の返答も聞かずに独り決めして歩いていった。念のため、後ろ姿を見てみた。巴御前のような女武者が振り向いて笑っていた。

2

三人が集合したのは駅近くの居酒屋だった。竹村が居酒屋を選んだのは意外だった。フレンチかイタリアンの店を選ぶとばかり思い込んでいた。竹村曰く、秘密会議をするのは居酒屋が一番だと。

理由はともあれ、生ジョッキで山沖救済作戦成功の乾杯をした。食べ物は竹村と川原の二人が自分達の好きなメニューを選んで頼んでいた。

俺はガラナ酎ハイに切り替え、飲みながら考え込んでいた。(どうする? 接触できる人間なら憑き物を入れ替えていくことは可能だ。接触の難しい田所課長の憑き物をどうやって入れ替えればいいのだろう……)

「松岡さん、どうしたの? 黙り込んじゃって。川原さんが一緒なんだから、何か言ってあげてよ」

竹村に肩をつかまれ揺すられた。竹村は下戸なのか? 中ジョッキ一杯で顔を赤くしている。

【前回の記事を読む】屋上のベンチに寝転がっていたら、隣から営業課長の部下いじめの話が聞こえてきた