第一章 透視男誕生

3

「だから、早く思ってみて、うそでも良いから」

出任せの効果があるかどうか焦っていた。

「分かりました。思ってみます」

竹村は不審がりながらも、俺の申し出に応じてくれた。頃合いを見て、テーブルの下で両手を組んで人差指を合わせ、竹村に向けた。弓矢の武者は消えて、着物姿の侍女が現れていた。

(よし、これで上手くいくはずだ)

「竹村さん、ありがとう。笹原さん達に会っても、特に『ごめんなさい』とかみたいなことは言わなくていいから。その代わり、今言った僕の言葉をおまじないだと思って、心の中で一日、思っていてくれないかな。それで状況が変わらなければ……」

「変わらなければ、どうするの?」

竹村は俺の目を不安そうに見つめている。

「いや、絶対に自然解消する。心配するな」

人の気配がし始めたので、とにかく言い切った。

「そうですか。でも、何か心理作戦みたいで面白そうだから、私、やってみます」

竹村は笑顔を見せると、先に会議室から出ていった。俺はタイミングをずらし、人目のないのを確認してからデスクにもどった。退社時間になって俺のところに最初に飛んできたのは、竹村だった。

「松岡さん。驚き! 仲間はずれというか、いやがらせがなくなったんです。それどころか、笹原さん達とこれから食事会に行くことになったんです。『女子社員で歓迎会してあげてなかったわよね。ホホホホ……ごめんなさいね。これからは、みんな仲良くやっていきましょうよ』って笹原さんが言ったんです」