竹村の表情は、穏やかな顔つきになっている。試しに透視すると、着物姿の侍女がかしこまっていた。

「良かったね。ただ、僕のおまじない忘れないようにね」

「はい。松岡さんって、心理学を勉強していたんですか? すごーく、的確ですよね」

「い、いや、特には……。食事会楽しんできて下さい」

取りあえず終わったと思った。笹原が次にやって来た。笑顔たっぷりの表情で近寄ってきた。

「松岡君、昨日はありがとう。あなたの話を聞かせてもらって、すねていた自分に気がつくことができたわ。変に若い娘と張り合って、自分らしさを見失っていたのね。私には私の魅力があるって教えてくれてありがとう。自信を取りもどしたわ。若い娘をいじめることにエネルギーを費やすくらいなら、若い娘に素敵な大人の女性って思われるように努力する方がいいものね」

「は、はあ。その通りだと思いますよ。これからも笹原さんの魅力を見せて下さいね。でも、案外、あっと言う間に結婚したりなんかしちゃって、がっかりさせないで下さいよ」

ヨイショが思わずこぼれ出てしまった。慌てて透視すると、お姫様が扇をあおぎながら微笑んでいる。

「松岡、ほんと口が上手くなったね。それじゃ、今日は女子社員で竹村の歓迎食事会をするから、またね」

笹原はきげん良く歩きかけて振り向いた。微笑んだ口元からひと言残してまた歩き出した。

「松岡君。今度は、私が誘ってあげるわね」

透視に見えたのは、ウィンクしながら手招きしている厚化粧した花魁(おいらん)だった。