海辺のレクイエム―愛する人にとって、自分は一体何者なのだろうか―
〈詩編〉氷音(こおりね)
ひび割れた月を頭に
私は考えあぐんでいる
あいつは白い歯で頭と顎を押し合っていたが
目には涙が滲んでいた
そして女の不幸を問うのだった
幸せそうだったと私が何べん言っても
やはり不幸を問うのだった
空の氷片(ひょうへん)の渦からの風が
あいつとの距離を隔てて
そこで私はかじかんでいた
何度も不幸を問ううちに
あいつの涙もすっかり乾いて
氷針(ひょうしん)の渦の中からか
白い蒸気が透き通っていく湾からの風の中からか
捨てられたらまた俺が拾ってやるという
どんな凍えた所を抜けてきたか知れやしない
何の疑いもない一筋の言葉が
冷えきった私の頬肉を
赤く剃っていった