日米了解案

それからしばらく経った四月十六日。我輩のご主人はウィンター氏との会談に臨んだ際、先方から

「これからお互いに交渉する際の原則を決めておきたい。我が国は全ての国際関係において根本となるべき一般原則を持っており、それを『日米交渉の四原則』としてまとめておいたので検討して欲しい」

という提示があった。その四原則とは、

一 全ての国家の領土保全と主権尊重

二 他国に対する内政不干渉

三 通商含めた機会均等

四 平和的手段による現状変更を除き太平洋地域の現状維持

というものだった。

(*筆者注)『日本外交文書 日米交渉一九四一年 上巻』(外務省外交史料館)に拠る。

この種の一般原則を作って他国に押し付けるのは米国の常套手段だ。しかも四原則は一九二二年の中国に関する九ヵ国条約の中身と殆ど同じだったので、我輩のご主人は

「またか……」

とうんざりした気分で受け取った。

その際、ウィンター氏は何気ない顔つきで更に言葉を続けて、

「同時に日米共同の具体案ができたようだから不備な点は今後の調整に残し、この案を四原則に照らして検討しては如何? 貴職と協議が進んだ後で日本側から否認されると後々やりにくいので日本政府の先行了解が望ましいのだが……」

と提案してきた。

この時、我輩のご主人と大使館の外交のプロの耳に止まったのは四原則ではなく、ウィンター氏の口から出た「日米共同の具体案」という言葉だった。