山川は、ハッとして尋ねる。

「だから、育成(牛)に乾草をたくさん与えるんですね」

「そうなるな。だからうちは乾草にこだわる」

山川は足元の感触に気が付いた。学校の試験草地と明らかに違う。

「まるでふかふかの絨毯だ。こんな草地は初めてだ」

「ちょっと座ってみましょう」

重盛に代わって千尋が口を開く。一行は放牧地に車座になってそっと座った。山川は、牧草をそっと左手でなでながら、ざっと植生を眺めてみる。

「裸地がほとんどない。すっかり牧草に覆われている。学校の試験草地とは大違いだ」

「どんな管理をしているんですか?」

重盛に代わって千尋が答える。

「基本的には、さっき見た完熟堆肥を撒いているわ」

「放牧地には化学肥料は撒いていないの。一番草を収穫する兼用地(一番草を刈ったあと放牧する草地)には、草地が青くなった五月中旬に反あたり(一〇aあたり)二○kgぐらい撒くかな。でも化学肥料はそれだけしか撒かないわ」

「化学肥料は、普通のやり方に比べて一/四程度しか撒いていないの? 本当に?」

化学肥料を十分に撒かないと、牧草はつくれない、そう教わってきた山川は、首をかしげながら千尋に聞いた。

「嘘ではないわ。でもこうして、牧草は十分に育っている。だから牛たちはおなかいっぱい草を食べられるの」

【前回の記事を読む】サケが農場に遡上する酪農家。行けば酪農の抱える問題を解決出来る予感がした…。