重盛は、牛床に落ちている糞に注目させた。硬そうで鏡餅のような形をした糞がいくつか転がっている。

「これは、搾乳牛でも同じような感じだ。糞がある程度硬いこと。これをうちでは重要だと思っている」

それがどのような意味かは、外に出てみれば分かる、と言いながらバーンクリーナーの出口に案内した。

そこは、生堆肥が堆積している堆肥盤だった。ピラミッドのようにきれいな三角形で、糞と乾草の食べ残しがたまった山になっている。またゆっくりと重盛は口を開く。

「糞が硬いことは、糞の水分が少ないということだ」

「これに、乾草の食べ残しを寝藁にして、最後には乾燥と糞が混じり合って、水分が多すぎない生堆肥ができる」

これがどのような意味を持つかは、一行にはよく理解できない様子だ。重盛は、東側の堆肥の堆積場に行くように促した。

「これはさっきの生堆肥をこまめに切り返しをして、一年以上たったものだ」

重盛と一行の前には、黒々とした台形の山が連なっていた。

「何なら、手に取ってみていいぞ」

重盛に促されて、一行はめいめい堆肥を手に取ってみた。

「これは堆肥ですか?」と山川がつぶやくと、内燃も目を見開きながらこう言う。

「まるで、黒い土だ」と。

「これが本当の完熟堆肥だ。糞のような感じがするのは、完熟堆肥ではないんだ」

「これを作るためには、糞の水分が少ないことが大事なんだ。それに食べ残しの乾草もな。完熟堆肥ができる農民が、本当の農民だと、俺は思っている」

重盛はそう言い終わると、

「さて、山川君がぜひ見たいと言っていた草地を歩いてみようか」

と言うと、電気牧柵のゲートを開けて、緑が一面に広がった放牧地へ一行を案内した。

放牧地には搾乳牛が草を食んだり、座り込んで反芻したりと、一行が来ても牛たちは驚いた様子もなく、思い思いに過ごしていた。

「肋がやたら深くないか? 腹もでかい」と内燃がつぶやく。

内燃のつぶやきに答えるように、重盛は少しずつ語りだす。

「牛は草食動物だから」

「草をがっつりと食い込めることが必要だ」

「そしてがっつりとした食い込みのためには、大きなルーメンとがっしりとした口が必要だ」