【前回の記事を読む】【小説】絶滅危惧種だとしても、自分一人で生きていく糧なら何とかなるだろうと思った
鶸色のすみか
牛乳、バナナ……、冷蔵庫に切らしているものを確認してコンビニに出かける。橋を渡りながら考える。水が流れるように仕事がしたいなあ。仕事も、生活も、未来も、水が流れるように。水の流れに乗せられて運ばれて幸せの海にたどり着きたい。そんな思いを胸に抱いてコンビニまでの道をゆく。
コンビニから帰ってくると、ドアの横の床に、五月分のポスティング配布物が届いていた。未来の時間が運ばれてきたかと、小さなため息。
洗濯物を取り込む。ベランダは、隣の敷地に建つ戸建て住宅やワンルームマンションに手を伸ばせば届くような近さだ。このマンションは、離婚する前から夫と二人で暮らしていた場所。実家に近いわけでも友人がいるわけでもなかったが、家賃が安いという理由でここに住み続けることにした。
三年前にワンルームマンションが建ってからは児童公園が見えなくなった。仕事用デスクからベランダに目をやると、ベランダの庇(ひさし)と前の建物との間に細長く空が見える。
垣間見える空の様子で明日の天気を占うのが日課といえば日課だ。晴れ曇りの空。カラスが物悲しく鳴いている。明日は雨が降るかもしれない。
しばらくの日々、仕事に集中して過ごしていたところ、白鳥さんからのメッセージの着信があった。
「連休はどうしていますか? 私の家で飲みませんか」
世間では居酒屋が皆休業になってしまったから白鳥さんも飲みに出かけることができないのだろう。それで誘われているのだ。こっちも大型連休といっても日常と変わりない日々だ。
「はい、いいですね」
ニコちゃんマークをつけて返信した。そして気がついた。これは定例会とは別個の飲み会だ。隣から掃除機の吸引音が鳴り響いてきた、月子もクロゼットから掃除機を引っ張り出す。掃除機のノイズは未来志向だ。