「あれ、これ、まだ飲んでないんですか」

感情を隠して聞いてみる。一年前玄関先であれほど飲んでみたかったと喜んでおられましたよねえと、心の中で付け足す。

「いつか、一緒に飲みたいと思ってね」

「いつか」

「今日、そう、今日」

今日と言った、白鳥さんの顔がくしゃっと破顔になった。爽やかな風がキラキラとした光と一緒に家の中までやってきた。カーニバルのような天気だ。

庭を見ると、自然風に作られた庭なのかそれとも手つかずでほったらかしにされた庭なのか、よくわからないけれど懐かしさがあった。木と木の間に布のようなものが弧を描いている。

「ハンモックですか」

「乗ってみる?」

「落ちませんか」

「大丈夫でしょう。昨日そこで寝ましたから」

「嘘でしょう。まだ夜は寒いですよ」

冗談だよという顔をして、網戸を開けて、黒いビニールサンダルを履くよう勧めた。ハンモックは布ではなく、紐を編んだような簡単なものでスイカを運ぶ袋みたいだった。落ちてしまわないだろうか。

ちょっと心もとなくて、バランスを取りながら体をその網の中に入れ込んだ。網目が月子の体に合わせて広がり、すっぽりとスイカのように収まった。