第一章 世界自然遺産の島「おがさわら」
五 固有植物の可憐な花 1 花々を探して出合えた喜び
さらに、真っ白に咲き誇る「ムニンツツジ」に出会った時には、自然に「会いに来ましたよ!」と言葉を投げ掛けていました。
花もまた、「よくぞ! ここまで、はるばる来られましたね!」とねぎらい迎えてくれているようでした。
戦跡調査を兼ねて道無き道を歩きながら、こうした固有植物の花々に、カメラのシャッターを押し続けました。そこで感じたことは、移入種による固有種への圧迫が、頓に目立つようになっているということです。
2 移入種が固有種の生態系を破壊
小笠原諸島は、日本本土から遠く一〇〇〇km以上離れた海洋島です。有史以来、一度も大陸と陸続きになったことがありません。
小笠原の植物は、長い間、外の陸地から丸ごと隔離され、その限られた区域だけで分化と進化を繰り返してきました。それに加えて海流の影響で、外の区域からの植物の侵入が困難であったことから、多くの小笠原固有種が生まれたのです。
このため、外の種との競合に対しては、一般的に極めてひ弱なものとなっています。それは、戦前・戦中、人間が薪(まき)や炭として使ったり、兵器の「隠れ蓑(みの)」にするために持ち込んだ強力な移入種により、小笠原の固有種は一部地域では、簡単に打ち負かされてしまっているのです。
例えば、戦前に持ち込まれたリュウキュウマツ、アカギ、ギンネムなどの移入種が、在来林に移入して問題になっています。
特に、アカギは周りの固有種を含む在来種の全てを駆逐してしまうほど生命力が旺盛で、それが顕著になっている母島の「桑ノ木山」の一部では、ほとんどの在来種が移入種に覆い尽くされて、残念ですが約八十年の時を経て、見る影も無くなっている場所があったりします。
こうした状況を踏まえ、小笠原支庁による希少植物の保護・増殖活動が、環境省の援助、東京大学付属小石川植物園の支援によって試みられ大きな成果を上げています。これは、「ムニンフトモモ」や「ムニンツツジ」など十六種について、昭和五六(一九八一)年から続けられた活動です。
父島・母島列島の自生植物で、固有種が占める割合は、約四割といわれています。木部が発達した多年生植物「木本」に至っては、七割以上が固有種のようです。
四季を通じて代わる代わる私たちを楽しませてくれる固有種の花は、全山を覆うように咲く「ムニンヒメツバキ」のような見事な花もあったりしますが、一方で短い期間だけ、山深くの木々の陰に、小さく質素に咲いている花々もあります。
その情景は何とも可憐で愛らしく、大柄で原色豊かな印象のある亜熱帯の花とは思えない趣です。しかし、こうした花々は、なかなか観ることは出来ません。それがまた、小笠原固有の貴重種であるゆえんなのかも知れません。