まえがき

夜間頻尿は男女問わず煩わしいものです。しかし、夜間頻尿ほど奥深い症状はなさそうで、理由を探そうとしても深い闇に包まれています。

本編では、一開業医の視点に立って特に男性高齢者を中心に、生体機能の観点からその正体の謎に迫りたいと思います。そして、高齢者は夜間頻尿に向き合わなければならないのです。

その理由についても追い求めていきたいと思います。全ての男女にとってもその根底に同じ生体機能現象の仕組みが起こっており、女性は前立腺が存在しないだけの違いです。

ただし、男性は前立腺の抵抗と膀胱の収縮とのバランスの影響が強く、女性より厄介です。日常生活の中でどのように過ごしていけば健康的、アンチエイジングに寄与するか、また、その体の仕組みを考えることは夜間頻尿の対策として参考になると思います。

それは代謝、熱放散、睡眠の仕組み、季節的変化、高齢化に向けた生体機能の仕組みなのですが、その変化に対応させる方策を解説する旅にお付き合いください。

当院は泌尿器科専門の施設で平成4年7月に茨木市に開設し、満31年を迎え、それなりに地域医療に貢献してきました。前立腺肥大症、過活動膀胱などの男性排尿障害患者を多く診てきており、それなりの実績を収めています。

私も多くの通院者と同じ世代となり、身をもって夜間頻尿に対応していますので、これまでの経験をまとめておこうと思い立ちました。最も興味ある題目は、「夜間頻尿、夜間回数をいかに減らせるのか?」です。

さらに、夜間頻尿対策の生活指導は、高齢者にとって最も基本となる健康や老化についての対策になるという思いから発したものです。すでに2018年に日本排尿機能学会で当院の成績を発表しており、その考えに従って現在まで継続して診療しています。

多くの通院患者さんからも手応えを十分感じており、高齢者の生体機能からみた臨床現場の現実的な生活指導法として、日常生活で役に立つ実用書、あるいは健康読本としてまとめることにしました。普段の診察室で話すことの説明根拠についても本編の内容を見れば十分理解してもらえると思います。

夜間頻尿対策の生活指導をするうちに、夜間の排尿回数の改善努力が高齢者のアンチエイジングの指標の一つになるのでは、と思い立ちました。夜間頻尿の状態は、死亡率や骨折率だけでなく、老化を防止するチェックポイントとも重なり、深い示唆に富んでいます。