【エッセイ】 いのちの名

『めでたくそして美しく優しい子に』と願いをこめて

「美弥子」という名にしたんだよ。

 

ある日母に聞いた。わたしの名前の由来は?

母は言う。

めでたくそして美しく優しい子になってとの思い。

母の言葉が耳に残る。

傍らで父も確かにうなずいていたのを覚えている。

 

「しあわせだな」つくづく思った。

 

そして誓った少しでも思いに沿うようなわたしになろう。

自身への小さな約束をした。

 

時々父を、母を思う。無口な父におしゃべりな母と、それなりにバランスのとれたふたりだった。

そんなわたしは、と言うと……。

「父に似て、無口なうえに頑固者」

母の言うには、それもしあわせ。

 

母の言葉に笑えたな。

時々母が「ぞっとするほどパパに似てきた」

気をつけないと今に……。

焦るわたし。どうなるの? その先教えて。

いたずら顔のママがいました。

そんなママがわたしは大好きでした。

 

「パパママわたしはどんな子でしたか?」

「願った名に相応しいわたしですか?」

今、声が聞きたい。

母の手を強く握りたい。

父の手も強く握りたい。

 

わたしが最後にふたりを見た時の光景。

とてもとても仲の良い、

お互いを思いやる素敵なふたりでした。

母が去り、追うように父も去った。

父が、母がいない現実を受け止めるには時間が必要でした。