八月七日 午後一時五十分頃 ハルビン ハルビン街 青島診療所

多恵とイリヤが診療所を出て行ってから、程なくして、入り口のガラス扉がバンッと開いて、ナツとアキオが勢いよく飛び込んで来た。ガラス扉につけられた鈴が、チリンチリンと明るい音をたてた。診療所の中の入口付近は、待合室になっており、ハルも茂夫も、診察室を出て、そこにいた。茂夫は、入口の右側にある窓際のベンチに座っていた。

アキオは息を切らしていたが、ナツは、大きな声で叫んで、おどけたように敬礼してみせた。

「お姉ちゃん! フユ! お待たせ!」

小鳥のさえずりのような声が、診療所中に響き渡った。

茂夫が、すぐに反応した。

「おお、ナツ! 久々に顔を見たくて待っとったぞ!!」

「シゲじい!! お久しぶりぃー!!」

「お姉ちゃん、お兄ちゃん、おカエリナシャイ!!」

ハルは、白衣を脱ぎながらあきれた表情だった。

「何、そんなに急いでいるのよ。どうせ、今から出かけても、ちょうどアベードの時間だからロシア人のお店は、みんな閉まっているのよ?」

【前回の記事を読む】生活が苦しい人も診療所にやってくるが…「医療は、お金儲けのためのものじゃない」