北満のシリウス

一九四五年八月七日 午後一時頃 ハルビン ハルビン街 青島診療所

小さめの丸顔、つぶらな人なつっこい瞳、少し広めの丸みを帯びた額、若干、鼻筋の短い小さな丸い鼻。薄めの唇。口角は、いつもキュッと上がっていて、愛想のいい印象を与える。笑うと目が細くなる。誰でも笑えば目は細くなるが、ハルは、特に細くなる。それが、人の心を和ませる。そして、血色の良い健康的な肌。引っ詰めた髪。身長は、百六十センチ少しだろうか。ウエストの位置は少し高めで、脚は、意外と長い。

ハルは、はっきり言って、とりたてて美人とは言えない。スタイルは、悪くないので、まあ、顔にばっちりとメイクを施し、髪もセットして、ドレスアップすれば、それなりに見えるのかも知れないが、一般的に見れば、そこそこのルックスだろう。だが、年より若く見え、かつ、親近感を感じさせる。

それだけに、茂夫のような年輩のおじいちゃん達に、たいそうな人気がある。彼らからすれば、女性として意識しているわけではなく、娘のような感覚で、かわいくて仕方がないというわけだ。医師の家に生まれ育ち、自身も医師であり、知性も教養もあるし、どこかお嬢様的な品もあるにはある。だが、それ以上に、庶民的な親しみやすさが、彼女の最大の持ち味であった。

医師といっても、すご腕医師的なカリスマ性とは無縁である。近所の明るくて楽しいお姉ちゃんといった感じなのだ。まあ、蓼(たで)食う虫も好き好きなので、彼女のことを美しいと言う男性もいるにはいるが、その場合、かなりマニアックな感覚の男か、口のうまい男のお世辞と考えたほうが、無難だろう。もっとも、彼女自身は、そう考えないかも知れないが……。

「ところで、ハルさん。ナツとアキオは、今日は、どこに行っとんじゃ? 夏休みなのに、二人とも朝からおらんかったようじゃが。スンガリーにでも遊びに行っとるのか?」

「いえ、富士高等女学校も花園小学校も、今日は、登校日らしいんです。でも、午前で終わったはずですから、もうすぐ帰って来ますよ。そしたら、フユも連れて四人でキタイスカヤのほうへ行く約束なんです。診療所は、今日は、これでおしまいですから」

「ほう? 家族揃って食事か? それはいい!」

「はい、チューリン百貨店で買い物をして、その後は、モデルンホテルか、石頭道街の名古屋ホテルで、ご飯を食べようっていう約束なんです。ナツが、今夜は夕食を作りたくないって言うから……」

その途端、茂夫は、嬉しそうに目を輝かせて、両手で両太ももを思いっ切り二回叩いた。そのパンパンっという音が響いた

「そう、そう! そうじゃった!! ハルさんは相変わらず料理が下手くそなんじゃった! それに引きかえ、ナッちゃんは、家事が得意じゃし、それに、最近、何というか、少し女っぽくなって来たのお!!」

ハルは、ふくれっ面をして見せた。