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二、牛李の党争
それは中国土着の民族宗教に較べ、仏教が庶民でも分かり易い思考、概念であり、広い国土に異なる文化を持って散在する多種多様な民族に、共通の価値観を持たせて民心をまとめ上げ、国家を統一するのに都合が良かったから。
唐王朝もこれまでの王朝同様、仏教を推奨したが、同時に道教も保護していた。一見矛盾したように見える政策の裏には、唐王朝誕生の経緯が関係している。唐の前、隋王朝は、疫病の蔓延や飢饉、高句麗(朝鮮)との無益な戦いの戦費や、長江と黄河を結ぶ壮大な大運河建設費用、皇帝煬帝の常軌を逸する遊興費で、財政を破綻させ自滅した王朝だった。
そのため、唐は戦うことなく国を手に入れ、無傷で残った隋の都、長安をそのまま唐の都として用い、国家組織も隋が設定した制度を継続運用し、破壊なくして成立した中国では稀な王朝なのだ。
唐の初代皇帝高祖(李淵)は、万民に隋との違いを知らしめる必要があり、王家として血筋に箔を持たせるため、庶民に馴染みがあり、同じ李姓であって存在自体が不確かな道教の開祖老子(李聃)を唐王朝の祖として祭り上げた。
そのため後の唐皇帝の子弟は、老子を祖先として崇め、道教を尊ぶよう教えられ育てられたのだ。こうして歴代皇帝は道教を信奉するが、道教の理念の中には、永遠の命を持ち不老不死の仙人になれるという神仙思想があり、憲宗はその神仙思想に心酔、不老不死になるための秘薬、金丹を愛飲していた。
神仙の秘薬金丹は人の躰を金属のように硬く腐らない、痛みを感じぬ躰に換えるという発想から生まれたもの、水のように流れ自在に色や形を変える摩訶不思議な金属、水銀を主成分に、鉛や金粉などを加えて体内へ取り入れることで、骨や筋肉を金属に置換させ鋼のように強く柔軟な組織に換えられると発案した結果の産物。
水銀、鉛などの重金属類は、多量に摂取すると神経線維や骨に蓄積し正常細胞を破壊する神経毒であり、今日では脳細胞までも犯して正常な思考力を失わせ、発狂して死に至らしめる有毒物質だと広く知られているが、千年以上前の中国では、水銀に摩訶不思議な霊力があると思われていた。
盛期を過ぎた唐皇帝の多くが、短命に終わったのは、道士の作る長生薬金丹を服用したためであり、何時の時代であっても征服者、権力者が陥る、未来永劫絶対的権力を持ち続けたいと願う欲望に、取り憑かれた結果だった。