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第一章 イマジン

その日の晩ご飯、家族四人でブリしゃぶを味わった。

文子は、六年前亡くなった夫・一之瀬亘との思い出を懐かしがり、

「亘さんと生活をともにしていたころは、ブリを〝しゃぶしゃぶ〟で食べる習慣がなかったわ。そのまま刺身にするか、照り焼きか大根の煮つけにするのが一般的だったの。

亘さんは、柚子の香りのきいたブリの昆布締めが大好物で、会社で何かあって機嫌が悪いとき、私が作り置きを冷蔵庫から出し、すぐに切ってあげると、ケロリと気分が良くなり、お酒が進んだもんよ。

昆布ごと食べるのが昔風で、今の人は昆布を剥がして中のブリだけ食べる人が多くて、勿体ないわ。そうそう雪がたくさん積もったとき、昆布締めをラップに包んで庭の雪の中に入れ、一晩寝かすと旨みが増して美味しかったもんよ」と滔々(とうとう)と語った。

華音は、昆布締めの思い出を次のように話した。

「おばあちゃん、雪の中に入れるなんてメルヘンチックね。

私、昆布締めは、どちらかといえば昔は苦手だったわ。小さいころ、お父さんをまねて、昆布ごと食べようとすると、噛んでも噛んでも噛み応えがあって、昆布を食べているのかお魚を食べているのかわからずじまいで、そのうち顎が疲れてきて、ご飯と一緒に飲み込むようにしていた。

今では、噛めば噛むほど、魚と昆布のマッチングというか、言葉では表現できないような味わいの奥深さがあって好きよ。

東京にいたとき、昆布締めが無性に食べたくなって、デパートの地下街の総菜売り場を探し回ったけど、見つけるのに苦労した。あるにはあるんだけど、試食用の昆布締めを一口味わってみると、思い描いていた食感というか舌触りといったらいいのかが、微妙に違うの。

結局、迷った挙句買わずじまいで悲しくなり、ホームシックになったの忘れられないわ」

華音の話を聞きながら瑠璃は、

「そうよ、私が小さいころは雪が多かったから、お母さんが雪の中に昆布締めを入れるの。幼心に何をしているんだろうと、面白がって見ていたもんよ。お母さん、ブリだけじゃなくて、イワシやサバもそうしていなかった!?」と華音にも聞こえるようにしゃべった。