文子はポンと手を叩き、

「真一さん、瑠璃、華音。今度、昆布締め三昧しましょう。そうね、私はイワシにカブを挟んだ昆布締めが大好きなんだけど、サバ、イワシ、タイ、ブリ、キス、サス、ヒラメ、白エビのフルコースということにしません!?」と饒舌だった。

「お義母さん、昆布締めのオンパレードですね。今から楽しみにしています」と真一は言った。

「もうそろそろ締めにしますよ。よろしいですか」と瑠璃が切りだした。

「おうどん、少しだけいただくわ」と文子が言いながらお腹に手をやった。

「うどんもいいが、僕は雑炊が食べたかったんだけど、次の機会に取っておくか……」とおどけた。

「ブリしゃぶは、うどんで決まり!」と華音ははしゃいだ。

「美味しいわね。うまい、旨い」と各々満面の笑みを浮かべた。

晩ご飯が終わり、ほうじ茶を飲みながら文子は、

「真一さん、瑠璃、頼みたいことがあるの。亘さんの七回忌、お寺さんに頼んでくれない。命日までまだ二ヶ月あるんだけど、ご住職にお願いできないかしら……」と手を合わせた。

「ハイハイ、わかりました。お義母さん」と真一と瑠璃は優しい眼差しで歩調を合わせるかのように返答した。

「今日は、胸につっかえていたことを吐き出すことができ、安心したわ。お仏壇の前で、亘さんにご報告してきます」と言って文子は仏間に向かった。

文子は阿弥陀如来に向かって、

「私は幸せ者です。こんな歳まで生かされ、皆さんに良くして貰い、これ以上望むべくもありません」と呟き手を合わせた。

後片付けを終えた瑠璃と華音は、ソファーでウイスキーをたしなんでいる真一と向き合って座った。

瑠璃は真一のグラスを見て、

「あら、今日はストレートなの?」と言った。

真一は、いつも水割りで飲んでいた。

「瑠璃、悪いがストレートでもう一杯だけいただくから注いでくれないか」

「お父さん大丈夫なの? あんまりお酒強くないのに……」と華音は真一を見つめた。

真一は瑠璃と華音に、

「お義母さん、相当気になっているのかなあ? 膵臓癌は、癌の中でもタチが悪い。見つかりにくくて進行が早いから……」と小声で言った。

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