【前回の記事を読む】【小説】測量に印刷広告デザイン…フリーランスの二人組が居酒屋に!?

鶸色のすみか

半年前に処方してもらった目薬の最後の一品がなくなりそうだった。仕事に費やす時間は日によって違うけれど、暇つぶしから始まった動画閲覧はやはり中毒性があり、パソコンの明るい光源を見つめる時間が増えて、気づかないうちに目を酷使している。

半年前よりドライアイが酷くなっているに違いない。

昨夜、白鳥さんと別れた駅の改札の階段を通って、駅北口に降りる。半年ぶりの眼科は、いつも混んでいるのにこの日は名前を呼ばれるのがやけに早かった。

古いパソコンのブラウン管モニターの内部をくり抜いたような空間の中にある画面に向かってプラスティックの小さな受け皿に顎を乗せて顔を突き出す。絆創膏で隠された左目の逆まつげが眼球に当たって気持ち悪い。

検査の最中、頭を動かしてはいけないので、体勢を崩さないように身構える。白い曲面の中央に数ミリの光源が点滅している。ドロップみたいなきれいなオレンジ。

ピッ、チカッ、ピッ、チカッ。眼球を動かさずに中央のオレンジの一点を見続けながら、曲面の四方八方に不規則に点滅する光を認知してすかさず手元のボタンを押すというのが検査の方法だ。

オレンジの光が瞬くようにランダムに現れる。大きくシミのように現れたかと思うと、塵のように小さい光が端っこで光る。とっさに握ったボタンを親指で押す。

ピッ、チカッ、ピッ、チカッ。どんなに小さくても眼球の端でそれをとらえることが月子に課せられたミッションだ。モニターとつながっている検査器の低音がずっと鳴っている。

低音のモーター音、点滅するたびに鳴るピ、ピという音、手元のカチカチという音がなぜか物悲しく胸に迫る。

検査師が「リラックスしてください」と唐突に言う。

もう何回もこの検査をしているから慣れているはずなのだが、次第にからだがこわばってくる。注意を受けて、体を弛緩させて挑むのだがまたこわばってくる。

草原の草むらの陰で微動だにせず獲物を見つめる鋭利な眼を持ったチーターにはなれっこない。測量機を覗く白鳥さんの対象物を捉える眼はどうだろうとふと考える。