他には、小学校の〝虎の威を借る学級担任〟というのもある。
「教頭先生、ウチのクラスの子が教室でボールを使って、ガラスを割りました。教頭先生から叱ってやってください」
と言うのである。
かなり違和感があったが、もうすでに職員室前の廊下に子どもを待たせている。おそらく子どもに「教頭先生に謝りに行くからついてきなさい」くらいのことを言ったのだろう。ここで私が断れば担任の立場もなくなるかと思い、戸惑いながらも職員室に子どもを呼び入れる。子どもはすでに神妙な態度である。
しかし、いきなり叱れと言われても気分が追いつかない。お決まりの説教まがいのことを短く言って子どもを解放した。
その後、私はその担任に
「先生、私を使うのはいいですが、こういうことをしていると子どもはあなたの指導を聞き流すようになりますよ」
と言ったら、きょとんとしている。
後でわかったことだが、これは小学校では常道であるらしい。
小学生は、中学生に比べて、校長や教頭を学校の中の〝偉い人〟だと強く思っている(特に地方ではその傾向が強い)。それを利用して「あなたのやったことは、こんな偉い人から叱られるようなひどいことなんですよ」と、わからせようとするのである。もし中学生に同様の指導をすれば、〝自分で指導できない頼りない先生〟と思われてしまうだろう。
その学級担任は二〇代の若手である。教職経験も数年。そんな世代にまで、〝虎の威を借る〟的な指導が伝承されているのだ。おそらく、ベテラン教員に相談して「そういう場合は、管理職に叱ってもらえばいいんですよ」とアドバイスをもらったのだろう。
若い教員は、自分の指導が通じにくい子への対応で悩むことが多い。この先、学級に大きな負の影響をもたらすかもしれないという〝不安〟もある。そんなとき、ベテランの助言は頼りになるのである。しかし、教員として自立するためには、果たしてそれが最善の方法なのだろうかと思う。
〝不安〟は、一般職員だけでなく管理職にも及ぶ。それは人事異動に際して、はっきりと表れる。