3 ヒトと道具の調和のために
調和と能力拡大
ヒトはその能力によって道具を発明し、自分ができることを拡大してきた。例えば、
〇文字と紙という道具を発明した。それによって、ヒトは記憶したり伝達したりする能力を拡張した。
〇紙という平面上でペンを操り、3次元の物体の見取り図を表現する。これは、生身の目では見通せない俯瞰的な視覚である。
〇顕微鏡や望遠鏡が、見えるものを増やした。
〇車や飛行機が、ヒトの移動距離を変えた。
〇インターネットが、交信する集団の規模を地球レベルへ広げた。
これらはすべて、ヒト能力の拡張である。紙に文字や図を書くとき、ヒトは器用な手指を操作する。高性能な眼で指の軌跡を確認し、手指の内部的な感覚とともに動きに修正をかける。そういったことを、瞬時に連続的に繰り返し行っているのだ。
ヒトは、その高度な眼の機能と手指の器用さによって、紙やペンという道具を使いこなしている。このとき道具は、ヒトの能力と調和している。有効な道具はヒトの能力を拡大する。拡大されたヒトの能力によって、道具は一層高度になる。
このようにして、道具とヒトの能力の相乗効果は、石器時代の昔からヒト社会を変えてきたのである。
ロボットを専門とする石黒浩氏は、
「遺伝子の進化よりも技術による能力拡張の方がはるかに速い。ロケットに乗って月に行くことはできるが、遺伝子を改良して月に行けるのはいつの日になるか分からない」
という[石黒浩,2022]。
ヒトは、道具によって生物の歴史さえ超えて歩み始めているのである。