序章

概要

本文書の概要

コンピュータは、エリートが脳を拡張する道具だった。そこには、昔ながらの、ヒトが道具としてコンピュータを操作するという関係がある。しかし、今や、スマホという形態で、誰もがコンピュータを利用するように変わった。この利用者の広がりに対応した、ヒトと道具の関係の変化が必要である。

筆者は、高齢者のIT利用をボランティアで支援している。その経験の中で、諸トラブルが、コンピュータの強いる認知負荷と、グラフィカル・インターフェイス(GUI)に起因することを検証した。また、筆者は、仮名漢字変換を開発する中で、ヒトが手指と目だけでコンピュータに対するのを不自然に思っていた。ヒトは、ほかに耳や口など、素晴らしい生体機能を持っているのにである。

そこでヒトの生体機能を詳しく見てみた。そこから新しい関係性とインターフェイスのあり方が示唆された。認知負荷が小さく、ヒトの生体機能を生かした、新しい関係とは? 

それは、ヒトと道具である知的な機械が、会話する関係である。ヒトがしゃべりや身体で意図を表現し、一方の機械も耳・口と目を持ち、ヒトに反応する。カラダ全体を使ったインターフェイスで会話すれば、誰でも生得の能力で自然にICTとインターネットを利用できるようになる。そして、実は、その実現のための技術は、すでにそろっている。ただ、アプリのくみ上げ方のデザインを変えさえすればいいのである。

日本は今、高齢化社会を迎えて、情報格差が課題となっている。情報化で、高齢者などの情報弱者を取り残すべきでない。一方で、社会のあらゆる側面で情報化を進め、効率化することが望まれている。ヒトと知的な機械の関係からは、むしろ爆発的な効果を得られるべきである。

本文書が、誰も取り残さずに大きな効果を上げるための提言になれば幸いである。

想定読者

本文書の想定読者

本文書は以下の方々を読者として想定しており、一般向けではない。

これから情報処理を志す若者と、情報処理技術分野で現在活躍しているプロフェッショナル

本文書は、今のコンピュータのインターフェイスはおかしいという問題意識に始まっている。この分野を志す若者と、一線で日々問題解決をしている方々に、ぜひ一緒に考えていただきたい。

スマート・モビリティ、スマート・ホーム、スマート・シティ、などどれも、ユーザー・インターフェイスの変化なしには実現しない。ユーザー・インターフェイスの変化は、IT業界全体の課題である。

高齢者がITを活用するというテーマに取り組んでいる方々

この文書では、ユースケースとしてしばしば高齢者のシナリオを取り上げる。現在のコンピュータ・インターフェイスの問題が、認知負荷に耐えられない高齢者で先鋭化している。その解決が、未来を示すと考えるからである。

自然言語処理、対話制御、音声認識、音声アプリに取り組んでいる方々、視線追跡やジェスチャー認識に取り組んでいる方々、そしてロボット開発に取り組んでいる方々

本文書は、従来の手で操作し目で見るだけのIT機器を、問題視する。そして、音声やジェスチャーの活用、ヒト型ロボットの利用が望ましいことを主張する。本文書はそれら技術コミュニティを応援する。