【前回の記事を読む】人生の先輩である入居者から聞く「また自分も少し賢くなった」と思うような話

第1章 入居者と暮らしを創る30のエピソード

7日目 暮らしを創る中で学ぶ

介護に関わるにあたり、私は頭で考えることと身体を使うこととのバランスが大切なのだろうと考えていました。今回は、その考えが前提となるような経験です。

私は、入居者のお食事の際、極力レストラン内を巡回するようにしています。それは、入居者の皆さんと顔を合わせることができる場所であり、お会いする中で、入居者の顔色や体調の変化に気づくことができる、絶好の機会だと思っているからです。

当時、私が勤務する老人ホームでは、レストランで食事をする際、お元気な入居者の方々のエリアと、主に要介護状態の方々のエリアとに分かれていました。レストランには、テーブルといすが整然と並び、そこに入居者が座ったり、またある方は車いすであったりと、食事をお召し上がりになります。

最初、あまり深く考えることなく、食事時間の都度、レストラン内で入居者の方々と声を交わしながら巡回していました。ところが、ある時、入居者が食事している姿勢を見ながら、あることに気づきました。なぜ机やいすの高さや形状が同じなのだろうかということに。確かに、一般的にレストラン内の机やいすは統一感があったほうが見栄えが良いのでしょう。しかし、ここは様々な身体的状況の方々のいる老人ホーム。そう考えると、様々な高さや形状の机やいすがあることが普通なのではないでしょうか。

入居者が食事を召し上がる際、一番大切なのは、適切な姿勢で食事を召し上がること、つまり「座位」が一番重要です。座る時の姿勢がしっかりと確保できないと、誤って飲食物が気管に入る誤嚥(ごえん)を起こしてしまう可能性があります。

例えば入居者の身体的特徴として、男性で身長が180センチメートル程度の方もいらっしゃれば、女性の方で145センチメートル程度の方もいらっしゃいます。恐らく、こちらのレストラン内の机といすは、入居者様の身体的特徴を考慮するというよりも、健常者の身体的特徴が平均的な方々を想定していたのだと思います。

そうすると、どのようなことが生じるか。前述の男性であれば、「背中を丸めながら」食事を、そして女性の方であれば、それこそ「のけぞりながら」、もしくは「いすにクッションを置いて、その上に座りながら」食事を召し上がることになり、「適切な座位」を取ることが非常に困難です。このような点を頭に置きながら、レストランを巡回する際に、入居者様の座位を、より注意深く見るようにしました。

やはり、要介護状態の方が食事をするエリアでは、車いすに座ったまま食事を召し上がっている方が多いと気づきました。この場合、車いすの車輪の直径を考慮のうえ、テーブルの高さを考えなければならないこととなります。