第一章 阿梅という少女
十一
おこうが手に入れた紅い小さな布は、太夫、かつて名のあった武将の娘、が身にまとうた品かも知れない。京や大坂から仕入れた品は江戸に運んで売って、江戸の女たちからも買う。くたくたになって、お尻や膝のあたりが薄くなった品でも、ただということはない。それなりの値で引き取るという。あまり傷みのひどい物は解く。解いてからいいとこ取りして端切れにして売る。
奥州をどんどん北に下がるほどに、古手屋の商う品は貧しげになっていく。だが値も下がるのでうまい具合に捌けるらしいのだ。
「そう言えば盆踊りの衣装のことば語ってたなあ」
古手屋から聞いた話だとおこうが言った。
「その土地は、関ケ原合戦で西についたお殿さまの領地だと。敗けて改易されたんだと」
わたしはどきっとして、おこうを見つめた。古手屋はやはり重綱さまの言われた忍びかもしれない。
「そこの盆踊りは見事なもんだって。女たちは端切ればつなぎ合わせて、小袖ば作るんだと。その継ぎ接はぎの衣装っこがなんだってかんだって、色っぽいんだってよお」
うまく色や柄を塩梅してつなぐので、少しも貧乏臭くなんかない。編み笠で顔をかくし、闇夜の中で薪の燃える炎を背景にした女たちは、あの世とこの世のつなぎ目で舞っているように見えた、と古手屋は語ったそうだ。古手屋の語りたかったことは、合戦や改易のことではなかった。わたくしは少し胸をなで下ろした。
あきんどはおのれの担いで行った先で、それらの端切れがどう生かされているかを伝えたかったのだ、色も柄も違う小さな端切れを、丁寧につなぎ合わせて一反にする。色は美しいが傷みのはげしいものは、力のかからない襟や袖などに持ってくればいい。そんな継ぎ接ぎして作った小袖の中に、ほんの縦三寸、巾一寸ばかりでも、紅色や緋色があるとぐんと色香が増すというのだ。
何年もかけて丁寧につなぎ合わせて仕上げた小袖は、女たちにとって宝物であり、一世一代の晴れ着なのだ。それは娘に孫にと受け継がれていく。
「笛の音と太鼓の響きが絡み合って、暗ぁい中で踊りっこ見てると、涙がこぼれるぐらい心が震えるんだと。あの古手屋でもじぃんとなること、あるんだっちゃね。ひとは見かけによらねもんだ」
「おこうはいい買い物をしたことね。見ているだけでうっとりする色だもの」
「んだあ、見るだけで励まされるっちゃあ。時々出しては眺めてんのっしゃあ。若さまに叱られなすって、お方さまには迷惑かけて申し訳なかったすう」
「大丈夫。おこう、もう、若さまではありませぬよ。殿さまです」
「ああ、んだった。申し訳ねえごだ」