そして、土曜日だけ「ベビーシッター」というものを初めて体験した。母親からは食事のタイミングと食べ物だけを教えられ、
「あとはすきにやって。」
と言われた。そして、両親とケルシーとブライアンは、家を出てしまったのだった。
「……」
しばらくの沈黙のあと、
「さあ、これからどうしよう?」
と自問自答した。
「とにかく泣かさないようにしよう。」
「泣くと、あとがたいへんだからな。」
と思った。おもちゃで遊んだり、歌を歌ったり、テレビを見せたりした。一度あくびをするのを見ると、音楽をかけたりもした。おしっこやうんちも気を付けて、一時間ごとにトイレに入った。
「何かあったら大変だ。」
と思い、非常に気を遣った。
「誰にも見られているわけではないから、けっこう気はラクかな。」
とは思ったが、ずっと気が張っていたような感じで、休むことができなかった。「ベビーシッター」を何度もやったことがあって、慣れていれば、
「こんなもんか。」
と余裕も出てこようが、そんな余裕などなかった。いい経験をさせてもらった。
十月の終わりに「ハロウィーン」の行事が学校であった。ミズ・マックアルーンに、
「それって何?」
と訊くと、
「子どもたちが仮装して学校にくるのよ。」
と教えてくれた。
「あなたも仮装してきなさい。」
と言われ、困った。仮装していく物がない。唯一あったのが、柔道着だった。授業で柔道を紹介していたので、日本から持ってきていたのだ。