第一部 第一章「二つの星の恋」 ゆきと
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手紙には、こんなことが書いてあった。
「拝啓 春野誉様
元気か? 突然のことで驚いただろ? 実は、今、台湾にいるんだ。 あの日、お前と見た流れ星見て思ったんだ。『本当の親』が誰かなんて、くよくよ悩んでいても答えは出てこない。それなら、『海に出て七竜宮神と大蛇に抗ってやる!』って、そして、母星に会えたら、『あきらめるな!』って伝えたかったんだよ。
『決してあきらめない奴のところに、奇跡は起こるんだ』
それを伝えるためには、俺自身が行動するべきだと思ったんだ。だから、家の近くの砂浜に置かれてあったシーカヤックを漕いだ。途中でいろいろな島に寄って、その島の人たちに『シーカヤックで一人旅をしています』って嘘ついちまったけど、食糧や水を分けてくれたよ。本当に、会う人すべて、優しい人ばかりだった。八重山の島の人たちに、大感謝だよ。
台湾近郊の海まで辿り着いたときには、海上警備隊に、めちゃくちゃ叱られた。言葉は、通じなかったけど、親父と母さんの写真を見た隊員が、幼いころ『宮城夫妻』に助けられたというようなことを涙ながらに話していた。そして、石垣島にいる親父に連絡して、日本のビザが発行されるまでの間、台湾に残ることができた。
だから、母星に会って『あきらめるなよ。生きて俺を迎えに来てくれ』って伝えてきた。俺にできることは、これぐらいだからさ。また石垣島に戻ったら、会おうな。流れ星を見に行こう。
宮城和人」
手紙を読み終えた僕は、溜息をついた。まったく無謀なチャレンジだ。もし途中で力尽き果ててしまったら。もし天災に襲われてしまったら。本当に死んでいたかもしれないというのに──。だけど、写真に写る先輩と母星の笑顔は、十八年の歳月、離れ離れだったことを感じさせない「本当の親子」のようだった。
ビザもなく国境を越え、しかも、遠く台湾までシーカヤックを漕いで、産みの母親に会いに行った無謀な青年のことを世間は、ここぞとばかりにニュースで取り上げた。
あの日、和人先輩と見た無数の星たちは、限りある命を燃やして、夜空に輝いていた。きっと僕らも、これからもたくさん悩み、苦しみながら、命を燃やして生きていくのだろう。だけど、それがいいんだ。命懸けで灯した火が闇夜を照らす星となるのだから。燃やした命の分、こんなにも星は美しい。
和人先輩が帰ってきたら、伝えたいことがある。けれど、それは星空の下で──。