第三章「強運な子」 ゆう
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「そんなに驚くこと? 私の歳を考えたら、考えそうなものでしょ?」
みんなが驚いたことに、私の方が驚いた。我が家では、私は一生独身のままで死んでいくのだと思っていたようだ。
「いいと思う」
そう言って喜んでくれたのは、意外にも兄嫁のさやかさんだった。
「浩二さん、美和子ちゃんにあのこと伝えた?」
「いや、こいつ、いつも忙しいしか言わないからさ。まだ伝えてない」と兄。
「ごめんね、前から、美和子ちゃんにお願いしようとしていたことがあるんだ。実は、私が経営しているドライフラワーアレンジショップで、カメラマンを探しているの。美和子ちゃん、写真撮るの上手だから、お願いしたくって」
そう言って、さやかさんは、淹れたてのコーヒーを出してくれた。
「あら、あなたにピッタリのお仕事じゃないの? あなた、お父さんに似て、昔から写真撮るの好きだったでしょ」
母は、喜びながら私に言った。さやかさんと一緒に仕事するのもいいんじゃない?と付け加えながら。
私を写真好きにしたきっかけは、中学三年のときの家族旅行だ。あの年、初めて東北の地に足を運んだ。そのときの仙台の街並みが、あまりにも美しかった。私は思わず、手に持っていたインスタントカメラで、何度もシャッターを切っていた。
目に見えるこの美しい眺めを、まるごと切り取りたかったからだ。そんな私を見て、父は、「カメラは、『今』という瞬間を切り取ってくれる。だからこそ、価値があるんだよな」と言っていた。その言葉が、私を写真好きにしたのだ。
その年の私の誕生日に、父はドイツ製のカメラをプレゼントしてくれた。そのカメラは、今でも私の宝物だ。