第一部 第一章「二つの星の恋」 ゆきと
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さとうきび揺れる昼下がり。紺碧の空、飛行機雲が一直線に伸びる。
高校二年、夏、部活がつまらない。
僕は、春野誉。僕の所属するサッカー部では、一つ上の先輩たちが受験勉強のために七月を最後に、部活を引退する。そして、二年生主体の新体制のチームができる。僕は、その新チームのキャプテンになったのだ。僕がキャプテンになった経緯は、僕らのチームの伝統で、前キャプテンが次のキャプテンを決めることになっていたからだ。
前キャプテンの宮城和人先輩は、もはや神に等しい人だった。成績は常に学年トップ。一年のときからキャプテンを任され、弱小チームだったこの学校のサッカー部を、県大会準優勝まで引き上げた。身長一八〇センチメートルのすらっとした体型と東南アジア系の目元の彫りの深さ、顎のラインがきりっとした端正な顔。非の打ち所がない。まさに、完璧な人。
僕らは、和人先輩を神のように崇拝していた。
そんな先輩から「新チームのキャプテンは、お前だ。誉」と言われたときは、思わず泣いてしまい、チームのみんなに笑われた。憧れの先輩が、僕をチームのキャプテンと認めてくれたことで、俄然やる気が出た。でもというか、やっぱりというか、もちろん空転の連続だった。苦しい悔しい、こんな部活、今すぐにでも辞めてやる──。
どうしてこうなったかというと、自分でも説明が難しい。いくつかの行き違いが重なった結果だろうが、一番の原因は、きっとあれだろう。
新チームになって一か月が経ったころ。僕らは、近くの高校と次の土曜に練習試合をすることになった。その前日の練習で、同じ二年の小林は明らかに手を抜いていた。
サイドからゴールエリア中央にセンタリングをあげ、中央に走り込んでいる選手がシュートをする練習のときだった。小林の持ち味は、サイドを切り裂く鋭いドリブルと小さな振りから放たれる弾丸センタリングだ。この練習は、小林の持ち味が発揮できる最高のメニュー。しかし、小林の蹴るボールは、中央に走り込んでいる選手にまったく合わない。それを見ても小林は悔しがるどころか、ヘラヘラ笑って、「わりぃ」とだけ言った。