休憩中、僕は小林に言い寄った。

「いい加減にしろよ。さっきから何だよ。みんな真剣に必死こいてやってんのに、何度も同じミスして。あれじゃ、練習になんねぇよ」

「今日は、調子が悪いの! お前に言われなくても、自分のことぐらい自分で分かってるよ。ガミガミ言うなよ。うぜぇよ」

「もいっぺん言ってみろよ。テキトーにやってるお前に、うぜぇなんて言われる筋合いは、ねぇよ。下手くそなら下手くそなりに、もっと練習しろよ」

「うぜぇからうぜぇって言ってんだよ。いちいちガミガミと押しつけがましく言って来やがって、俺の気持ちを分かろうとか、そんな気持ちはないのかよ。お前の思い通りにならない奴は、みんなクズ扱いか。お前こそ、テキトーにキャプテンなんかすんなよ。和人先輩は──。あの人は、誰の話でもしっかり聞いてくれたぞ。それが、キャプテンじゃないのかよ。ふざけんなよ」

それからは、お互いに掴み合いの言い合いだった。そのあと、小林は、「今日は、帰る」と一人で勝手に帰っていった。小林の言葉が頭の中を反芻する。

「和人先輩なら──」

確かに、和人先輩なら、きっとできたはずだ。小林の気持ちに寄り添うことが──。あの日以来、僕とチームメンバーとの温度差は歴然としたように思う。練習をサボる人が増えたわけではない。でも、休憩中の僕はいつも一人だった。

後輩たちは、副キャプテンの吉澤にべったりだ。次の練習内容を教えてもらうときでさえ、「吉澤先輩、カラーコーンは、どこに置けばいいですか?」と、キャプテンの僕を差し置いて吉澤がチームの指揮を執っている。

何だよ、吉澤の奴。俺がキャプテンを任されたとき、「やっぱりお前がなると思っていたよ。よろしくな」なんて言っていたくせに。

僕は、日陰になった体育館玄関前の階段で、しょぼくれていた。小林は、僕との言い争いのあとから、まだ部活に来ていない。もう一週間も経つ。

「少し言い過ぎたかな。いや、俺が悪いんじゃない。へらへら練習していた小林が悪いんだ」

頭の中を天使と悪魔がバチバチやっている。

「どうでもいい!」

そう言って、ドリンクボトルを階段に置いた。思いのほか勢いがあって、近くにいた女子マネージャーが「ビクッ」と体を強張らせる。いけない、いけない。と自分に言い聞かせ、無理に笑顔を作り「ごめん」と、グラウンドに出た。