第一部 第一章「二つの星の恋」 ゆきと
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和人先輩からメールが来たのは、そんなにっちもさっちもいかない、もうお手上げ状態のときだった。
「たまには、部活を休め。真面目なのがお前の欠点だ。いつものファストフード店で十二時集合な。遅れんなよ」とだけ。
その日、僕は生まれて初めて、部活をサボるための嘘をついた。顧問の先生には、親戚の不幸があってと伝えた。電話越しに胸の鼓動が聞かれてしまうのではと、正直ビビった。先輩にそのことを伝えたら、腹を抱えて大笑いしていた。
「これで一つ成長したな。その成長を祝って、今日は俺が全部おごってやるよ」と言った。
先輩と二人。チームの溜まり場のファストフード店で、ポテトとフロートを挟みながらいろいろな話をした。その殆どは、僕の悩み相談のような感じだった。チームのメンバーに避けられている気がすることや練習に身が入らない小林に苛立って怒ったら、「お前、うぜえ」と言われ、喧嘩になったことなど。
先輩は、僕の話を真剣に聞いてくれた。それが嬉しくて、たがが外れてしまった僕は、思いがけずに号泣していた。苦しくて、悔しくて、嬉しくて。心の均整が取れない。
「おいおい、そんなに泣くなよ。周りから誤解されるだろうが。俺がお前を泣かせてるみたいじゃんかよ。バカ、泣くな」と、先輩は、周りの客があらぬ誤解をしないように、「違いますよ。カツアゲとかじゃないですからね」辺りに会釈を繰り返した。
そのときの僕は、目も当てられないような状態だったのだろう。僕は、胸に溜まっていたものが吐き出されたことで、何だか心が軽く感じられた。
「なあ、星、見に行かないか。今日までなんだってよ。ペルセウス座流星群」
先輩は、最近取った車の免許を自慢げに見せると、「親父から車、借りてきたんだ」と店を出た。