第一部 第一章「二つの星の恋」 ゆきと
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石垣島の南には、さっき僕たちがいた市街地がある。市街地から北へ向かうと、島のほぼ中央に於茂登岳だけがそびえ立つ。沖縄で一番標高の高い山だ。そこからさらに、北へ、先輩は車を走らせた。向かう先は、島の最北端部。平久保崎灯台だ。
南の空にあった陽が、於茂登岳の山の端を紫色に染めていく。
「先輩は、どうして僕にキャプテンを任せたんですか? 僕にはやっぱり向いていないと思います」
そう言った僕に、先輩は笑ってこう言った。
「向いているとか向いていないとか、誰が決めるんだろうな? 周りから見て、どう見てもこの人しかいないと思っていても、当の本人が、向いていないっていうと、じゃあ、誰も向いていませんね。としか言えないよな」
先輩は、それ以上は何も言わなかった。その代わりに、車の中で歌手が雄弁に語り始めた。
さようならから始めよう
これから俺たちの人生が始まる 高鳴る鼓動に 迷いなどない
俺らには、過去なんてもうどうでもいいのさ
自分の進む道は、自分で決めろ! いつもそうしてただろ?
ただ待っているだけの人生を過ごすのか? そんな人生、何が楽しい?
このままでは終われない 心がそう叫んでいる!
これが俺たちの判断だ
言いたいだけの奴らには、言わせておけばいい
大事なのは、腐らないこと
やり遂げるのさ できるだろう
抗ってみろよ お前の人生、そう悪くはないぜ
ジャズポップと言われるジャンルだそうだ。この曲を歌っていた「Bird」というバンドは、確か十年前に解散している。だが、最近、人気が再燃し始めた。和人先輩が、よく試合前に聴いていた。僕も真似して、試合の日の朝や気持ちが沈んだときに部屋で一人、イヤホン付けてガンガンで聴いている。
この曲を聴いているときは、上手くいかないことすべてを忘れることができた。だけど、今は、モヤモヤな気持ちが収まらない。