平久保崎灯台は、春先になるとテッポウユリが凛と白く、辺りに咲き誇る。僕らがそこに着いたときには、濃紺の空が辺りを包み込んでいた。

駐車場には何台か車が止められていた。ドアを開ける傍から、空を見上げている人がちらほらいる。南風に乗って伊集(いじゅ)の花の甘い香りが鼻の横を通り過ぎる。ふとその方角を見ると、長い髪の女性が一人、凛と立っていた。伊集の花の香りがよく似合うと思った。

つい見とれていると、先輩が「夜なのにサングラス掛けているのって変だな。ああいう女性が、お前のタイプか?」とニヤニヤ顔で、僕の顔を覗き込んだ。僕は、熱くなっている顔を見られたくなくて、先輩に背を向けた。

『伊集の木の花や あらんきよらさ咲きゆり わぬも伊集のごと 真白(マシラ)咲きかな』

先輩が八八八六(サンパチロク)で歌う琉球歌を詠んだ。

「どういう意味なんですか?」と僕。

「いや、古典の授業でさ、先生が詠んでいたんだよ。意味は、『あんなにきれいに咲いている伊集の花のように、私も真っ白く美しく咲きたい』確か、そんな感じだった。その先生、不思議な先生でさ、『受験勉強ばかりしているといい大人になれないぞ。いつも頭の中に余白を作っておくんだ」なんて言ってた。その言葉が、妙に心に響いてきたのを覚えているよ」

そう言うと、先輩は僕の背中を叩いて「さあ、手伝え」と車のトランクからキャンピングチェアを取り出した。チェアを出したあと、近くの自販機で買ったコーヒーを片手に、僕らはペルセウス座流星群を待った。

「星砂の話って、知っているか?」唐突に、先輩が言った。

「星砂ですか? よくお土産店に置いてある星の形をした砂ですよね? 星砂にどんな話があるんですか?」

「竹富島にはさ、こんな話があるんだよ」と先輩は話し始めた。

『二つの星の恋』

北の空にひと際明るく輝く北極(ニヌファ)(ブシ)

北極星は、南の空に優しく輝く星に恋をした。

二つの星は愛し合って、

キラキラ輝くたくさんの子どもを南の海に産み落とした。

しかし、それを良く思わなかった(なな)竜宮(りゅうぐう)神は、

「誰が勝手に、わしの預かるこの海に、子どもを産み落としたのだ。

その子どもたちを、すべて殺してしまえ」と、大蛇に命じて、

子どもたちを全部食べさせた。

大蛇に食べられた星の子どもたちは、星砂となり、海を漂い、

竹富島の浜に打ち上げられた。

その様子を見ていた竹富島の神は、星砂を大切に守り、

せめて一年に一度だけでも、南に輝く母星(おや)に会わせてあげたいと考えた。

そして、神女に「香炉の灰を入れ替えるときに、星砂を入れなさい。

それを一年に一度、行うのです」と、お伝えになった。

だから、今でも、

星の形をした子どもたちを香炉の煙に乗せて

南に輝く母星(おや)に届けているのです。

話が終わると、先輩は夜空を仰ぎ見た。眼前に広がる満天の星に手が届きそうだ。

【前回の記事を読む】衝突が絶えないチームメイト…苛立ちが積もるなか知った衝撃の事実