第一部 第一章「二つの星の恋」  ゆきと

「なあ、産んでくれた母星と拾ってくれた竹富島の神、どっちが『本当の親』にふさわしいと思う?」

和人先輩は、僕に目も向けずに、ただ星空を睨みつけるような目で、そう言った。

「『本当の親』って、よく分かんないですけど、たぶん、どれだけ子どものことを想っているかじゃないですか?」

僕は自信なく、そう答えた。

すると突然、夜空に青白く光る星が現れた。僕らは、それをまじまじと見た。その星が大きく横に滑り出したかと思うと、太く力強く光を放ちながら左から右へと消えていった。時間にするとほんの一瞬だったのかもしれない。でも僕らには、スローモーションで駆けていったように感じた。まるで、時空の歪みに迷い込んだかのような感覚がしばらく続いた。

そして、次の一言は、殆ど同時だった。

「今の見た!?」

僕らは、顔を見合わせて、お互いに興奮している顔を笑い合った。

「すげえ、俺、初めて見たわ。流れ星に願い事を言うと叶うっていうのあるだろ。一秒もしないで消える星に願い事なんか言えるかよ。って、ずっと思ってた。でも、そうじゃないって分かったよ。実際に見ると、(なん)かこう……その空間だけ写真で切り取られたような、一瞬時が止まった感じ? 上手く言葉にできないけどさ。分かるだろう?」

興奮して話す先輩は、無邪気に草むらを虫取り網持って駆ける少年の瞳をしていた。

先輩は、何かに吹っ切れたように、「よし!」と言うと、星砂の入った小さな瓶を僕に渡してきた。

「それ、預かっていてくれないか。小さいときに親からもらったお守りなんだ」

「いや、そんな……」

僕の言葉を遮るように、先輩は話を続けた。

「俺も星砂も、似たようなもんでさ。産んでくれた親と育ててくれた親が別なんだよ。俺は、養子なんだ。俺を産んだ親は、台湾の貧困家庭の少女だそうだ。貧乏ながらに毎年、俺宛に手紙を送っていたらしい。親父と母さんは、時機が来たら伝えようと思って、手紙が来ていたことを俺に伝えていなかった。だけど、今年届いた手紙の中に、『病気が悪化して、そう長くは生きられない。息子に一目でも会いたい』と書いてあったそうだ」

遠くを見る先輩の体は、少し震えているように見えた。

「和人先輩は、どうするんですか。台湾に会いに行くんですか?」

「分かんねえ、ほんと。これまでさ、本当の親だと思っていた人たちに、『産みの母親が、そう長くは生きられないから、台湾に行って、傍に居てやってくれ』と、言われても……。思考が追いつかないよ」