伊達陸奥守さまが大坂に向かわれる途中、病気見舞いに白石城にお立ち寄りくださった。お殿さまは正装して迎えられた。すっかりお痩せになって、やっとの思いで身を起こされておられる衰弱ぶりに、伊達さまは胸を突かれたようなご様子で、思わず膝を進めてお殿さまの手をとられ、両手でしっかりと包み込むように握られた。

お二人ともこれが今生の別れになるだろう、と感じていらっしゃるご様子だった。わたくしは思わずこぼれる涙を指で押さえたが、周りにはべる者たちもみな涙をこらえているようだった。

「このたびの東西対決は、まず必ず一度は和睦となりましょう。和睦の条件は城の壁を崩すか堀を埋めるかになると思案いたします。そして再び戦って勝敗が決まります。その決着は明年に持ち越されることになりましょう」

息も絶えだえに声を絞り出すお殿さまの口元に、伊達さまはお耳を寄せられ、深くうなずかれた。

「わしのためにも長生きしてくれ」

伊達さまはじっとお殿さまを見つめられたが、そのお声は震えていた。

「せがれの重綱はそれがしに似た不出来者ですが、勇猛にかけては誰にも引けは取りませぬ。こたびの合戦にはそれがしに代わって、是非とも先鉾に使っていただきとう存じます」

伊達陸奥守さまはその約束を果たされたのである。重綱さまも期待に応えて発奮なさった。

じつのところわたくしには、お殿さまの偉さは伝聞ばかりで、もう一つ分からなかったのだが、伊達陸奥守さまが見舞ってくださったときのお殿さまの言葉が、その後ことごとくが的を射ていたことに思い当たり、背筋が寒くなったのだった。

(だい)八丸(はちまる)は九度山でもわたくしが見ておりました」

阿梅は控えめながら、自分に弟の世話をまかせて欲しいと言うのだった。

「阿梅どの、よく考えてください。お城で一緒に暮らすことはできないのですよ。大坂方の武将の男子がご公儀に見つかればどうなるか、よくお分かりですね。大八(ぎみ)のことは、内々の者でもごく限られた者しか知らないのです。秘密が公儀に漏れたときは、片倉家にとどまらず伊達家にまで累を及ぼすことになるでしょう」

阿梅は息を呑むようにして目を見張り、思いの至らなさを恥じるように、両手をついてひれ伏した。

「阿梅どの、お顔を上げて。今は耐えるときです」

阿梅にとって九度山での一家そろっての生活は、もう二度と取り戻すことのかなわない、かけがえのない歳月だったのだ。

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