第一章 阿梅という少女
十
このたびの戦では、わたくしは勝った側にいる。戦場は遠く離れていて、片倉領は焼かれることも、打ち壊されることもなくて済んだ。阿梅は負けた側にいた。立場が逆だったら、わたくしは、まだ幼い娘は、どうなっていただろう。武家に戦はつきもの。明日は我が身と思えば、阿梅の辛さや悲しさは他人事ではない。わたくしは思わず阿梅の手をとった。
「大八君のことは大丈夫です。心配はいりませぬ。お父上のご家来だった西村どのと吾妻どのが、これまでどおり大八君の傅役として仕えていますからね」
「ありがとう存じます。色々ご迷惑をおかけしまして……、すまないことでございます。して大八丸は、ど、どのあたりに……」
弟の住まいがどのあたりになるのか、気になるのだろう。阿梅はひれ伏したまま顔を上げた。阿梅の声は小さく遠慮がちであったが、大きな目が強い輝きを放っていた。
「わたくしにも詳しいことは分からないのですが、あの蔵王山の麓のあたりと聞いています。毎日あの蔵王山を拝んで、大八君の息災を祈願することにしましょう」
このごろ何かの折にふと感じる阿梅に対するうとましさを、わたくしはこのとき洗い流したように忘れていた。
愛おしい気持ちで胸がいっぱいだったのだ。最近わたくしは阿梅のことを考える度ごとに、いつも心が厭わしさと愛おしさの間でゆれ動くことに、我から気づいていた。
阿梅たち二人を大事に育てて、しかるべきお家に縁づかせることだけを考えていたときは、娘のように妹のように愛しいばかりだったのだが。
阿梅には何の落ち度もない。ただ、日いちにちと女らしく美しくなっていく。そのことに、わたくしが自分勝手に苛立たしさを感じているだけなのだ。
きっちり合わせた衿元からさえ、少女特有の色香が匂い立つように感じられることがあるが、阿梅は自分の美しさにまるで頓着なさそうに見える。わたくしの仕立て直しの地味な着物にも、不平不満の眉根一つ動かさない。それに何を着せても不思議なほど着映えがする。