「政子、可愛いね、まだまだ気をやってはダメだよ、これからもっともっと気持よくしてあげますからね」、
政子は息も絶え絶えであった。
(今日は初めての夜なので、色々な手数を床の中でされるよりは、平凡に可愛がってもらいたい。新手を繰り出されたり、判官殿みたいに曲取りなど要求されても困るし、四つん這いにされて、お尻に後ろからでも取り組まれたら難儀なことじゃ。いくら何でも、そんな姿を初夜のうちから佐殿には見せられない、それでは夫の身体も見えないので私も寂しい、でも、そんな恥ずかしい格好もすこし慣れてきたら試してみたい……)
政子が夫と慣れ親しんだら試したいと思った態位の[ひよどり越え]は、源平合戦で義経が一ノ谷の裏手の断崖絶壁から駆け下りて、平家の軍勢を背後から攻め破った故事から名づけられたらしい。女に獣の姿勢をとらせて背後からお尻を支えて挿入するもので、時には女も顔を上げて手の平で身を支える場合もあれば、肘で支えたり上体を下げて押しつぶされたような格好になることもある。
これは四足獣の交尾に似ており、男は加虐的(サディスティック)な願望をかなえ、女は牝獣のごとく扱われるという未意識の空想で苦痛に甘んじる被虐心理(マゾヒズム)を満足させることになる。現代では通称[バック]と呼び、誰もが一度は試したい定番の一つである。
「政子どの、今度の嵌め方は前と違うよ、“九浅三深”の術で抜くときはゆっくり、入れるときは強くするので、突かれて気持ちが良くなったら、必死に私にしがみついて遠慮なく大きな声で歓んでいいのですよ。そうすると、もっと、もっと気分がのってくるからね」
『好色旅枕』によれば、「九浅三深の秘法」とは、男は女の花門に向け、己が男根をゆっくりと半ばまで浅く嵌入し、九回抜き差しをする。女が「もっと深く入れて」と、女門を強く押し付けてきたら、ここで初めて男はぐっと根元まで深く差し込み、三回抜き差しをする。
この方法で、女体はもう完全に絶頂に至ってアクメに達する。こうして常に女をアクメに導くことで、女はこの男が忘れられなくなって最愛の男として生涯離れることができないようになってしまうのだ。