第1部 政子狂乱録
二 新鉢を割る
この頃になると、政子も当初の失望感は消え去り表情も恍惚となって、その唇も半開きである。
男は女の舌を自らの口中に招き入れ、上唇で上歯を覆うようにして己が唇を巧みに使い、ヌリヌリと舌と舌を絡めた。歯が当たらないように注意をしながら、唇で女の舌を抜くように舐めた。こうすることによって男の舌は自然と女の差し出した舌の下側になり、その先端は女の鋭敏な舌の付け根に接することになる。
男の唇の動きと舌の先端の微妙な接触を受けると、どんなに性的に鈍感な女でも、陶然として狂わしい情愛に包まれてしまうことは体験済みであった。
口吸いのときは、女に舌を吸い寄せられて主導権をとらせてはならない。一見真面目そうな御曹司も、密かに近在の娘御や後家様を相手にしている天性の不埒者であり、こちらの方面の探求にも余念がなかった。
一体に、頼朝という人は女に対して相当うるさい人で、この後も彼の婦人関係は様々な事件を引き起こすことになる。思いつめた表情を浮かべ政子は頼朝に縋りついた。
男は女の着物の前をかき分けて、手を太腿から陰阜の辺りへ移動させると、指がしとどに濡れ甘く香りを放つ粘膜を探りあてた。そうなると、初めての経験なので女の抵抗力はたちまち衰えて、体内には灼熱の炎が次第に燃え始め、何とも切ない気持ちが込み上げてくる。
「あっ、あゝ……… ああ、あんっ、かんにん、優しくして、私は殿方とこのようなことは初めて……」
頼朝は政子の言葉が意外だった。それが本当だとしたら、この年まで未通を通した政子の新鉢は自分が割ることになるではないか、それならば、もっと懇に行なわなければならない。