タケル──霊体の説明

「確かに、この物質の世界は、善良な人にとっては、試練の場かも知れないね。肉体を持っていることによって、いつも物理的な死の恐怖と隣り合わせに生きていかなければならないし、病による苦痛など他の世界にはない苦しみが多いね」

タケルは清美に同情を示した。そして、清美は更にこの世の苦しみを訴える。

「それに、肉体があるから、それを養うために苦しい仕事もやむを得ずしなければならなくなるし、そのために嫌な人とも一緒の空間に居なければならない。それぞれの人がしたいことが自由に出来る環境ではないように思うわ」

「でもね、苦痛を伴うような強度の、肉体的生命に対する危険を意識するから、何事をするにしても、緻密に行う習慣が身につくという良い面もあるのだよ。生きていくために、生命を守るために、この世のことを綿密に知ろうとするし、互いの約束事もきっちり守ろうとするんだよ。そこは、物質界の特徴であり、長所でもあると思う」

「物質界にも良いところが有るんだ。嫌でも生きた方が勉強になるって事かな」

清美は、軽くうなずきながらも、口をとがらせながらつぶやいた。タケルは更に清美の興味をそそるように、霊体の緻密さの差異が及ぼす卑近な例を挙げてみた。

「霊体の質量の善し悪し、つまり、精神的レベルの高低についてだけど、肉体をまとっている清美ちゃん達にはそれを一目で見分けるのは難しいかも知れない。だけど、それを肉眼でも感じる時があるはずだよ。例えば、“目が澄んでいる”、または、“目が濁っている”という表現があるね。

良い感情の元になっている細かい精妙な質量が振動する時のエネルギーは、その波長は短く直線的で、あまり干渉し合わない。それで目が澄んで見える。逆に悪い感情や欲望の元になっている粗い質量が振動する時のエネルギーは、波長が長く、干渉し合うので濁って見えるって具合にね。誠に目は心の窓である。言い得て妙だね」

「はん、目元が涼しいって表現もあるよね」

清美は身近な例に興味が倍増したようだ。我が意を得たりとばかりに、タケルは続ける。

「精神的境地を高めるということは、物理的に諸体の構成質量を細かい精妙なものに変化させていくことでもあるのだよ」

「タケルさん、どのようにしたら、私達の体の構成質量を細かな精妙なものに変えていくことができるの? 体の構成質量を上質なものにしておけば、幽霊のような、次元の低い霊に憑かれるのを避ける事が出来るのじゃないかしら。だって、彼らに見えなくなるんでしょ」

「グッド・アイデアだな。そうだね、私達の諸体の構成質量には、“要不要の原理”が働くんだよ。毎日、良い感情がわき、良い事を考えていると細かい精妙な質量が増え、悪い感情や思考の元になっている粗い質量が減少していくよ。だから、感情や思考を制御させる道徳というものも人間の精神的発達には一役買っていると思う」

「なるほど、道徳も私達の為になっているんですね」

「逆に、劣悪な環境に人が置かれると悪いことを考えやすくなるから、低レベルの粗い質量の方が増え、精神的に退化することも考えられるので、要注意だよ」

「ああ、環境ね、難しいな、自分で選べないことも多いから。私の環境も良くないと思うなぁ」

清美は、そう言いながら天を仰いだ。