タケル──天国と地獄
「さあ、続けるよ。要不要の原理が働いて、日々の思いや行いが良いか悪いかで諸体の構成質量は決まってくるから、誰が裁くのでもなく、自然に、それぞれの比重に応じて、相応しい場所に収まっていくんだよ」
「毎日良い子にしていれば、死後の世界で性格の悪い人達と一緒に過ごさなくても良いんだ。あーあ、やっぱり早く死後の世界に行きたいな」
清美の厭世観はかなり重度と見える。
「まあまあ、物質界でなければ体験できないことも多いのだから、折角生まれて来たんだ、生きている内に色々学ぼうよ……夜も随分更けてきた。清美ちゃん、少し寝た方が良いよ」
「そうね。あーあ、今日のこの日は、忘れられない日になりそう」
「明日は日曜日だから、この続きは明日ね」
清美は、家の中に入ると空気の温かみを感じると同時に、体が夜気によって、すっかり冷え切ってしまっていることに気がついた。何しろ、憑依されるなどという体験は初めてのことだから、寝床に入ってからも興奮がしばらく冷めずにいた。しかし、ちょーじのこと、タケルのこと、思いも寄らない出来事を思い出しては反芻しているうちに、いつの間にか寝入ってしまっていた。気が付いたのは、翌朝の10時を少し回った頃だった。
軽いブランチを済ませて、歯を磨いていると、タケルの声がした。
「どう? よく眠れた?」
「ええ、気が付いたら、ぐっすり眠っていたわ」
清美は、自分でも驚いている風だ。
「自殺しようとした夜に、ぐっすり眠れたなんて、大した肝っ玉だ」
「ああ、そう? お褒めにあずかりまして、ありがとうございます」
と言いながら、清美は肩をすくめて見せた。
「昨日話したところで、分からないところはなかった?」
「うーん、分からないところね……天国や地獄に行ってからも住むところの上下の移動はあるの?」
「もちろん、ある」
「地獄に落ちた人でも、地獄から脱出傾向にある人と、より深く沈潜傾向にある人がいるのかな?」
「両方いるね」
「そうなんだ。どこへ行っても気が抜けないね」
「それから、肉体を持って生きている君達には、精神的レベルの高低は、よほど眼力が無いと見抜けないものだけど、僕達には霊体を構成している質量の違いが視覚的に見えるから、誤魔化しようがないんだ。清美ちゃんの場合は、清廉潔白、高尚なものに対する憧れが強いが、ちょっと厭世観が強いと見た。どうかな?」
「へえ? そうかな。人としてバッチイところが色々あると思うけどな」
と、清美は照れ笑いをした。
「エーテル界(3次元)にいるのは、幽霊とあなた達だけなの?」
「いやいや、他にも沢山いるよ。人霊とは違って肉体を持つことのない生物もいるからね。精霊達もそうだし、妖怪達もそう、フフッ……。それに生き霊もいる。そういう体質の人が世の中には数は少ないけど、いるにはいるんだよ。そうだな、それに詳しいキクチさんに代わってもらおうか。彼、生き霊そのものだから」