キクチ──生き霊

「キクチです。ご紹介にあずかりましたように、私、生き霊です」

「生き霊ってことは、肉体はどこか別の所にあるわけね」

と、清美はちょっと物知り顔だ。

「そうだよ。俺達生き霊は自分の肉体からそんなに離れないのが普通なんだけど、中には飛行機や新幹線に乗っている人に憑依して長距離移動する生き霊もいるよ」

「それで、自分の肉体に戻った時、霊体で活動した時のことを覚えているの?」

「それは、霊的進化の度合いで異なってくるんだけど、まあ、発達している霊の場合は肉体に戻った後でも覚えていて、未発達な霊の場合は、覚えていないようだな。ちなみに、僕は全部しっかり覚えている方だね」

「そういう体質に生まれついて、困ることはない?」

「困ること? 色々あるね。肉体から長時間離れることが多くなるから、肉体に生命エネルギーが供給されにくくて、老けやすいね。普通の人よりグッと老ける。それから、俺、生き霊体質のために随分と悲しい思いをしてきたんですよ。特に親子関係は最悪。生き霊体質というのはね、眠りに落ちると、エーテル体(幽複体・3次元)で活動するのですよ。だから、意識としては、眠るという感じがなく、四六時中起きているの」

キクチは、幼少の頃の思い出話を続けた。母親が赤ん坊のキクチを寝かしつけて、他の仕事をしようとする。しかし、キクチは母親にかまってもらいたい。何とかそれを伝えようと、母親に憑依して胃袋なんかを引っ掻く。母親は痛くてたまらない。初めは、キクチの仕業とは気がつかないが、度重なってくると、キクチを寝かしつけると胃が痛くなるという関連性が見えてきて、母親はキクチを気味悪がるようになる。

もう少し大きくなると、おもちゃが欲しいと言っては駄々をこねる。両親が買ってくれないと、父母の体の中に入って暴れる。それで、父母はキクチを恐れ、躾が出来ない状態になり、キクチは性格的に偏ってきてしまい、後の人生に大きく影を落とした。

「それは、怖い様な、悲しいお話ね」

清美はキクチに同情した。

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