バザー・ナーダ(ナンを売る尼僧など)

酒の即売会らしきものをやっている店があった。いろんな瓶を大瓶小瓶を何十本も何百本も並べてある中央に、見たところ六十余りの一人のおっさんがでんと座っているのである。上半身は裸ででっぷりと太り、太鼓腹で二段腹。二つの胸はむっくりと膨れて、まさに女性の胸そっくり。その乳首辺りには五六本の黒い毛が生え、体全体は赤みを帯びている。

顔はと見れば、下ぶくれの赤ら顔で円満福相。頬は垂れて鼻は丸く、細い目の上には黒々とした眉毛が生えていた。頭に毛はなくして、つるつると禿げ、まさに布袋様の姿そっくりの人物であった。目は酔眼、すでにできあがっている顔である。

「いやあ、いいですな。飲まざるものは食うべからず。いや、いや、飲まざるものは生きるべからず。いやあ、皆の衆、飲んでくだされい。いくら飲んでも結構じゃ。しいん、しゃいん、しょいん。いや、いや、試飲なんてけちなことは言わん。さあ、さあ、いくらでも、いく日でも、飲んでくだされい。一日は長い。ここの国は一日二十五時間じゃ。いくら飲んでも日は暮れぬ。さあ、さあ、酒は百薬の長、千薬、万薬、億薬、兆薬の長じゃ。

さあて、皆の衆。ここにはな、驚くなかれ、と言ってもな、この世には驚くほどのものは何もござらん。いやあ、わしは何を言おうとしてるのか。愉快、愉快。言うことを忘れるくらい愉快なことはござらんて。言うことを忘れる、言葉を忘れる、自分を忘れる、世界を忘れる、これほど愉快なことがあろうか。これをアルツハイマーなどと言うのは、世間はつまらん。世界は忘却からできておる。人の一生は忘却から生まれて忘却に帰る一休み、風吹かば吹け雨降らば降れじゃね。