四章 気づいてあげられなかった悔悟──娘由美の脱毛症との付き合い方
四ノ四 再発、しかし治療放置
若い娘が自分でせっせと働いたお金で数十万円もするウィッグを買うというのは相当大変なことです。このとき、私はまた胸を締めつけられるような思いがあり、おいしいものでも彼と食べて、と食事代程度を渡しました。突然の驚きに、そのくらいのことしか思いつかなかったというのが正直なところです。
もう大人です。昔のように治療に関して私主導で色々と指図してはいけないのでしょうが、由美の行動、治療が気になってしまいます。爪が伸びるように髪は普通に生えないの? と思うこともありました。
歯の詰め物の金属除去をすれば体の不調がよくなるという話もきいたことがあります。由美に話すと、「歯は特に何も詰め物はないはずなのだけども」と言います。
テレビドラマでよく、がん患者を演じる帽子姿の人や、つかむとたくさん手に髪がついてくるというシーンを見ることがあります。そのような映像を見ると、なんとなく私は、違和感を覚えていました。個々の症状の差はあるでしょうが、たいてい目元パッチリの役者さんです。この悪性の脱毛症もがん患者も想像を絶する辛さがあると思うのもあります。
代われるものなら代わってあげたい、との言葉があります。現在の年齢を重ねた私は、もしも”魔法”でできるなら代わってあげたいと思います。しかし過去の私は、まだ若く、代われるものなら……の言葉が頭をよぎったときに、いや、私は代わりたくない、と悲しく冷たく、そう思ってしまったのが正直なことなのです。
命には別状ないとされるこの脱毛症、しかしいつ生えるという先が見えていないのです。また別の話で”髪は女の命”という言葉があります。では由美は命を何度かなくしていることになるのかなあ。
誰が最初に言ったのか、いい意味で言ったのだとわかっています。名言だけれどもあてはまらない女性もいるよ、と言いたいのです。