兆し

疑惑

会は滞りなく進み、最後に応援歌斉唱と真栄山市長である鈴木三郎の締めの挨拶でお開きとなった。鈴木は吾郷たちの二十期ほど先輩にあたる。さてどうしようか。カラオケでもいくか。吾郷たちはカラオケで久しぶりの青春を謳歌した。二次会も終わり、メンバーがそれぞれ家路につく道すがら、吾郷は村野に声をかけた。

「ムラ、どう? サシでもう一軒」

「いいね。アゴとは久しぶりだもんな」

二人は集団からそっと離れ、バーにはいった。乾杯をしてから吾郷はやんわりと切りだした。

「ムラ。会で話題になった山北の件だけど何か知ってる?」

村野はにやりとして

「そうくると思ったよ」

と言った。

「そうなのか」

「ああ。そろそろ血が騒いでいるんじゃないかと思った。立花先生にも(あお)られてたし」

「図星だ。ご存知のように役所では山北開発を推進する部門に身を置く立場だけど、俺の着任前に進められた案件なので関係資料を閲覧していたんだ……」

吾郷は佐木とのやりとりを話した。

「さもありなんだな」

村野はそう言って水割りを口に含む。

「というと?」

「うん。実は市有地払い下げを含む山北開発計画を黒岩産業が落札後、しばらくして告発文書めいた物が真栄山日報に送られてきた」

村野は語り始めた。

――その告発文書は、落札に際して談合があったこと、市当局がそれと知りながら黙認したこと、黒岩産業が不正会計で裏金を作っていたこと、さらにその金が市長サイドへ流れたことを匂わす内容だった。村野はさっそく関係者への取材を始めたが、ある時デスクからストップがかかった。出所不明の怪文書だから、という理由だったが、どうやら社長の指示らしかった。