「じゃあスグル、バイブスはどうやって生まれると思ってる?」
ヒロキは少しも、揺るがずにまっすぐ聞いてみたかった。スグルは真摯に受け止めたが、わりと、飄々として答えた。
「生まれ持っているものを素直に表現できたときかな。生まれ持っているものって、なんて言えばいいんだろう……、こう……、深いものから出ていると思うから、深いところまでいったときに、この世界全体に流れている血液のようなものに到達して……、そうすると、リスナーも、何か心に響くようになって、もう命が弾けちゃうんじゃないかな」
ヒロキは体ごと縦にふって、何か、魂から納得した様子になってしまって。
「おぉ……なるほど、なるほど。じゃあバイブスは一人だけじゃ生み出せないものなんだね」
「うん。一人でも深いところまで掘っとかないと、ライヴのときに、それを表現するまで持っていくのは難しいかな」
「なんか話を聞いてたら、思ったんだけど、ライヴのときに生まれる、あの一体感って、そういうことなんだろうね」
「そうだね!ああいうときに、ぼくたちは、本当のぼくたちになれるんじゃないかな!やっぱり、ひ・と・つ、なんだよ」
「まあ……、スグル、スグル、おまえはピュアだからな……。あんまり染まらないで欲しい……。まだ言っておくことがあるよ」
ヒロキは感動していたが、よりいっそうに、強調したい様子になった。
「おれは、どんなにゴミ扱いされようが、絶対に評論家にはならない!下手くそでも、おれは、いつだって、世界を創造していくんだ!おまえもこれからは、気を付けろよ、染まるなよ、スグル!ただの評論家や観察者、傍観者になっては駄目だ」
この前、ひょんな縁でドイツロマン派のノヴァーリスの本を読む機会があったのだが、それにも[真の読者は拡大された作者でなければならない]と、書かれていたので、非常に驚いた。きっと、神様から、そのように促されているのだと、シュトゥルム・ウント・ドラングの時代の人のようになってしまって、スグルの胸は、高鳴り、愛の火花が散るようだった。
「うん!その意味合いが持っている命のようなものに、すぐには、到達できないかもしれないけれど……、いろいろとやっていくし……、やってみるよ!」
「そう、その意気だ!ふ~ん、ふん、らら~♪」
「どうしたんだよ、ヒロキ。そんな昔の歌を歌って」
「染まらないで~~ららら~♪」
「もはやハンケチが必要です」
「ハッハッハ!!」