14  噴水

一人ワンルームのソファーで、芋虫のようにうずくまっている。たまにくる憂鬱とは、少し違う。もっとぽかりと穴が空いてしまったような寂しさがスグルを襲ってきた。ライヴは明後日に迫っている。しかしながら、この寂寞のようなものはすっと味わい尽くしてしまうと、何か違うものに、変化するような気がすると、言えるのなら、こんなに苦労はしていないだろう。

いいや、探るのも疲れているが、どちらにせよこの厄介な自分からは抜け出せられない。逃げられもしない。消えてなくなってしまったほうが、楽かもしれない。というか、すでに、何かが消えている。う~ん、そうか、これは、自身の外側にある、なんらかのものを、彷徨い求めているんだ。なにかを渇望している。なにか、なに……あなたはいない。あなた? あなたとは一体誰? はあ、誰でもよくはないみたいだ……サヤカ……サヤカ。

よし、ライヴが終わったら、告白してみよう。そうだ、告白するんだ! ……待てよ、本当にそれでいいのだろうか。告白して、フラれた場合は、サヤカとの友人関係までギクシャクしちゃうのではないだろうか……。まだ、待ったほうがよいか……、だからといって、もう、自分の気持ちには嘘はつけない……。(せい)(ひつ)な理性だって、言いなさいと安らかに(ささや)いているようだ。

それにしても噴水が胸にあるみたいだ。ぼくの胸の噴水が溢れて、はじめは全身にその水沫が広がり濡らしていったが、今では洪水だ。これは、病なのか。ああ、もうなんだか狂おしい! サヤカに言おう! ぼくは、サヤカが好き、好きなんだ! 想いを伝えてこそ、愛の完成に近づくものだ……。

伝えられない境遇の人々は、世の中には多くいるだろう……。幸いにも、ぼくは、想いを伝えられる幸せな立場にある。そう、ぼくは、明後日にはステージに立っている。そのステージは、ぼくの人生のステージでもあるかもしれない……。

けれども、ぼくがサヤカに想いを伝えるということは、人生のステージだけではない、この世界全てに流れている命の源のようなもの。そのメロディーを震わせて、循環させ、一点の曇りもなく輝かせることなんだ! それこそ愛というものではないだろうか!

小さな個から、全に向かって開花していく瞬間、そうか……、ライヴとはそういうものなのか!! 自我が歌の魔法によって、天上に運ばれて、それによって、天上と地上に天使の梯子が生じる。歌い手や演者はともかく、リスナーやリスナーのご縁のあるご先祖様や霊界とも一体となって、天上の恩恵を賜る、最高の場所なんだ!! 

ここで、沈黙が金だと言って、沈黙を貫くならば、生きながら死んでいるゾンビのようなものだ!! ぼくは、ゾンビにはならない!! 世界を全身全霊で、この血の声で、愛よりも愛で創造していくんだ!!!

スグルはソファーから(せい)(かん)に立ち上がり、不思議と湧き上がってくる力を活かしたまま、拳を握りしめ、力強く、目の前を見つめた。